東京大学は、匂い提示から約0.3秒後に生じるシータ波帯域の活動が匂い分子の特徴を符号化し、その精度が嗅覚能力に寄与することを明らかにした。嗅覚障害理解やトレーニング法開発に道を開く成果だ。
東京大学は2025年11月18日、匂いを嗅いだ直後に脳内で生じるシータ波帯域の活動が匂い分子の物理化学的特徴を符号化し、その精度が匂い識別能力に関与することを明らかにしたと発表した。匂い提示から約0.3秒後という極めて早期の脳活動が、ヒトの嗅覚能力に寄与することを示した。
研究では、健常成人32人に9種類の匂いを提示し、高密度脳波計で嗅覚誘発脳波を計測した。得られた脳波を時間/周波数解析するとともに、機械学習によるデコーディング解析や表象類似度解析を実施した。その結果、匂い提示後約80〜640ミリ秒に現れるシータ波が匂い分子の特徴を符号化しており、特に約300ミリ秒付近で符号化精度が高い人ほど、嗅覚検査における匂い識別能力が優れていることが分かった。
さらに、2種類の匂いを識別する課題では、正答した試行でシータ波のデコーディング精度が高かったことから、早期脳活動が行動レベルの識別にも寄与していることが示唆された。一方、約720ミリ秒以降に出現するデルタ波は、匂いの快、不快を符号化しており、その精度が高い人ほど日常生活で匂いを楽しむ傾向があった。
これらの結果から、嗅覚系では時間の経過とともに、分子の物理化学的特徴の符号化から、匂いに対する主観的な快、不快の符号化へと情報処理が段階的に移行することが示された。今後は、匂い提示直後の脳活動パターンを指標として、嗅覚障害の診断や嗅覚機能向上のためのトレーニング法開発などへの応用が期待される。
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