医療AIはクラウドベースへ、オリンパスが消化器系内視鏡でプラットフォームを構築医療技術 インタビュー(1/2 ページ)

消化器系内視鏡で世界トップシェアのオリンパスがAI技術の導入を積極的に進めている。2023年6月にオリンパス傘下に加わったOdin Vision CEO兼ディレクターのピーター・マウントニー氏に、同社の技術やオリンパスグループが目指す消化器系内視鏡向けAI技術の開発の方向性などについて聞いた。

» 2025年02月07日 06時30分 公開
[朴尚洙MONOist]

 ChatGPTやDeepSeekなどの生成AI(人工知能)をはじめAI技術は驚くべきスピードで進化を続けている。このAI技術の産業利用で大きく期待されているのが医療分野である。

 消化器系内視鏡で世界トップシェアのオリンパスも、内視鏡画像をAIで解析し医師の診断を補助するソフトウェア「EndoBRAINシリーズ」を2020年から展開するなどAI技術の導入を積極的に進めている。さらに、内視鏡画像診断に関する革新的なクラウド型AI技術を有する英国のOdin Vision(オディン・ビジョン)を2023年6月に買収するなど、AI技術への投資を強化している。

 そこで、来日したOdin Vision CEO兼ディレクターのピーター・マウントニー(Peter Mountney)氏に、Odin Visionの技術やオリンパスグループが目指す消化器系内視鏡向けAI技術の開発の方向性などについて聞いた。

大腸内視鏡検査における病変発見の確率をAI技術で劇的に高めたい

 マウントニー氏は、英国のインペリアル・カレッジ・ロンドンで機械学習とメディカルイメージングを学んで学位を取得した後、2011年に大手医療機器メーカーであるSiemens Healthieersに入社して医用画像へのAI技術の適用を検討するSenior Key Expert Scientistを務めた。これと並行して、2014年からは英国のキングス・カレッジ・ロンドンで客員講師も務めており、ポリープ検出用AIの開発なども手掛けた。

Odin Vision CEO兼ディレクターのピーター・マウントニー氏 Odin Vision CEO兼ディレクターのピーター・マウントニー氏[クリックで拡大]

 その後2019年からはユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の名誉準教授に就任しており、このUCLからスピンアウトする形で2019年に創業したのがOdin Visionだ。マウントニー氏は「UCLは英国政府が出資する研究プロジェクトで中心的な役割を果たすことが多く、AIに関する成果も多数ある。AIを活用したタンパク質の構造予測などで2024年ノーベル化学賞を受賞したメンバーにもUCLの出身者がいる」と語る。

 マウントニー氏がOdin Visionを創業したモチベーションとして挙げたのが、大腸内視鏡検査における病変発見の確率をAI技術で劇的に高めることだ。「年間の症例数が非常に多い大腸がんだが、内視鏡検査ではわずかな病変を見つけ出すのが極めて難しい。症例全体の内、25%程度は病変の見逃しがあるのではないか。この25%をAI技術で大幅に小さくできればそのインパクトは大きい」(同氏)という。

 これまでにOdin Visionが開発した医療AI技術は「CADDIE」「CADU」「SMARTIBD」の3つだ。創業のモチベーションとなった、大腸内視鏡検査における大腸ポリープまたは初期の大腸がんが疑われる病変の検出および診断を支援するのがCADDIEである。CADUは内視鏡検査におけるバレット食道の異形成の検出が可能で、SMARTIBDは大腸内視鏡検査における潰瘍性大腸炎の状態のスコアリングを支援する機能を備えている。マウントニー氏は「CADUで対象にしているバレット食道の異形成も検出が難しく、その上成長スピードが早いのでAIで早期発見できることには大きな価値がある。SMARTIBDでは、潰瘍性大腸炎の重症度を点数にすることで診断の平準化が図れる」と開発した狙いを説明する。

「CADDIE」による病変検出画像 「CADDIE」による病変検出画像[クリックで拡大] 出所:オリンパス

 なお、CADDIE、CADU、SMARTIBDは2024年10月に欧州医療機器規則(MDR)に基づくCEマーク認証を、CADDIEは同年9月に米国食品医薬品局(FDA)の510(k)認可を取得している。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.