慶應義塾大学は、転移性尿路上皮がんの免疫チェックポイント阻害薬耐性の仕組みを解明した。がん細胞に繰り返し生じる遺伝子変異が多種の悪性サブクローンを生み、治療で克服しにくい免疫抑制環境を形成することが分かった。
慶應義塾大学、東京大学、東京科学大学は9月1日、転移性尿路上皮がんの免疫チェックポイント阻害薬耐性の仕組みを解明したと発表した。がん細胞に繰り返し生じる遺伝子変異が多種の悪性サブクローンを生み、治療で克服しにくい免疫抑制環境を形成することが分かった。
研究では、転移性尿路上皮がんの病理解剖例において、抗PD-1療法の反応が異なる8部位を対象に全ゲノムシーケンスを実施。同一患者内で、各部位の腫瘍に異なるパターンの遺伝子変異が見られた。
この8部位に計58箇所の評価点を設定し、多領域全エクソームおよびRNAシーケンスを実施した。その結果、多くの変異は部位間で共通したが、一部は同一臓器内でも異なり、部位ごとの特異的変異や生物学的経路の活性化などが示唆された。これらのことから、同じ臓器内でも異なる場所で違った表現型が誘導されることが分かった。
腫瘍空間に存在するクローン集団を推測できるパイクローンによる解析では、19のサブクローンを同定した。うち#12と#14が、効果が見られなかった部位に多く存在し、悪性クローンと判断した。
この2つのサブクローンを空間トランスクリプトミクスと単一細胞解析でマッピングしたところ、#12の領域では細胞障害性T細胞に加え、悪性なM2マクロファージの浸潤が確認された。#14の領域では細胞障害性T細胞の疲弊が特徴的で、免疫抑制が制御されていない状態が示唆された。
遺伝子発現解析では、#12はがん幹細胞性、#14は細胞増殖能亢進が特徴だった。これらの結果から、#12と#14は単一細胞レベルでも異なるがんプロファイルを持ちつつ同一患者内で共存し、固有の免疫抑制環境を形成していることが明らかとなった。
近年、一部の悪性度が高いサブクローンが、腫瘍全体の挙動に影響を与えるという「悪いリンゴ(bad apple)」概念が注目されている。今回得られた知見により、サブクローン標的化や免疫微小環境の改変など、新たな免疫治療への展開が期待される。
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