大阪大学は、超速老化魚キリフィッシュと独自の可視化、網羅解析を用いて、小胞体ストレス応答が表皮幹細胞の若さを保つ仕組みを解明した。老齢表皮に小胞体ストレスを与えると遺伝子発現が若返り、増殖が回復した。
大阪大学は2025年10月15日、小胞体ストレスが皮膚幹細胞、前駆細胞の若さの維持に関与することを発見したと発表した。超速老化魚をモデルとすることで、短期間での皮膚老化メカニズムの解明に成功した。九州大学らとの共同研究による成果だ。
これまで小胞体ストレス応答は、細胞がストレスを受けた際に働く防御機構と考えられてきた。今回の研究は、脊椎動物でありながら、性成熟後2〜3カ月で老化して死に至る超速老化魚ターコイズキリフィッシュ(キリフィッシュ)をモデル動物として使用。独自の可視化解析と網羅的遺伝子発現動態解析を組み合わせて解析した。
まず、3つの応答経路のうち、無脊椎動物からヒトまで高度に保存されたIRE1-XBP1(小胞体膜上に存在するタンパク質複合体)経路に注目。その結果、肝臓などさまざまな組織では、IRE1-XBP1経路が加齢により活性化することが分かった。一方、皮膚幹細胞が存在する表皮基底層では、若い時期にRE1-XBP1経路が活性化し、老化に伴い活性が低下することが明らかとなった。
加齢した表皮基底層細胞では若さの指標となる増殖活性が失われていたが、小胞体ストレスを活性化する薬剤を投与すると、細胞増殖活性が復活した。このことは、小胞体ストレスの強制活性により、老化した表皮基底層の活動を若返らせる可能性を示している。
また、最先端の空間トランスクリプトミクス技術により、若い表皮基底層細胞と老齢の表皮基底層細胞では遺伝子発現パターンが異なっていることを確認。小胞体ストレスを与えることで、老化した表皮基底層のさまざまな活動が若返ることが分かった。
小胞体ストレス応答IRE1-XBP1経路が細胞増殖を促進するメカニズムとして、細胞周期進行を正に制御するVcpがIRE1-XBP1経路の下流で発現誘導され、表皮基底層細胞の増殖を促進することが示された。
さらに加齢に伴うグルコースの代謝低下が、IRE1-XBP1活性の低下につながることも示唆された。ヒトやマウス組織でも、この「小胞体ストレス応答-Vcp経路」による幹細胞制御と加齢に伴う機能低下が生じている可能性が強く示唆された。
今回の成果は、小胞体ストレス応答が皮膚幹細胞の若さ維持に機能するという新概念を提示したものとなる。小胞体ストレス経路の制御は、加齢皮膚の予防、治療戦略になり得る。
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