ナノ医療イノベーションセンターらは、体内で100時間以上安定して働く新型ナノマシンを開発した。がん細胞の栄養を枯渇させる「兵糧攻め療法」で、膵がんと乳がんに高い治療効果を示した。
ナノ医療イノベーションセンターは2025年11月5日、体内で長期間酵素を安定的に作用させる新型ナノマシンを開発したと発表した。がん細胞が生き延びるために必要な物質を腫瘍組織から枯渇させることで、難治性がんの兵糧攻めによる治療の有効性を確認した。九州大学、東京科学大学、東京大学との共同研究による成果だ。
薬物療法の効率化を目的として、薬剤を極小のカプセル(ナノマシン)に包み込んで摂取する「ナノ医療」は、ナノマシン自体が免疫システムに異物として認識され、攻撃/破壊されてしまうことが課題であった。
今回の研究では、ナノマシンを免疫細胞の異物反応から守る「ステルスマント(透明マント)」として、ポリカチオンとポリアニオンから成るイオンペア・ネットワーク構造を設計。タンパク質吸着やマクロファージからの攻撃を抑制することで、体内半減期を従来の約10倍となる100時間以上に延ばすことに成功した。
L-アスパラギン分解酵素アスパラギナーゼを搭載したナノマシンは、がん細胞の栄養源であるL-アスパラギンを腫瘍組織から持続的に枯渇させる「飢餓療法」を可能にした。マウス実験では、転移性乳がんや膵がんモデルで腫瘍増殖の大幅な抑制を確認している。
特に膵がんでは、薬剤の浸透を阻む厚い線維質の間質を分解し、免疫チェックポイント阻害剤との併用で長期生存を達成した。
同技術は、従来のポリエチレングリコール(PEG)に代わる新たなステルスマント設計として注目される。研究チームは「薬を入れる」から「環境を変える」治療へと発想を転換し、がん代謝を制御して治療効果を高める新しいアプローチを提案した。
今後は、代謝改変療法や免疫療法との併用など、難治性がん治療の幅広い応用が期待される。
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