東京大学は、分子生物学・生化学的手法と計算機シミュレーション活用し、細胞が物理的実体のない浸透圧変化を、細胞内タンパク質の液―液相分離によって感知していることを明らかにした。
東京大学は2021年3月1日、分子生物学・生化学的手法と計算機シミュレーションを活用し、細胞が物理的実体のない浸透圧変化を、細胞内タンパク質の液―液相分離によって感知していることを解明したと発表した。同大学大学院薬学系研究科 教授の一條秀憲氏らの研究グループによる成果となる。
研究では、低浸透圧ストレスで活性化し、高浸透圧ストレスでは不活性化するタンパク質のASK3に着目。ASK3は、高浸透圧ストレス後、数秒で細胞質全体に丸い顆粒状に局在分布する。分子生物学・生化学的手法と計算機シミュレーションを用いて、この現象がタンパク質やRNAが高濃度で存在する高クラウディングによる液―液層分離であり、ASK3の不活性化に必要であることを明らかにした。
また、ASK3の不活性化には、NAD合成経路の律速段階反応(ボトルネック)を担うタンパク質NAMPTが必要であることも発見した。NAMPTによって細胞内の量が調節されているポリADPリボースが、ASK3の流動性を調整することで液体の性質を維持し、ASK3の不活性化が可能になるという。
内外を水溶液で満たされている細胞は、常に浸透圧ストレスにさらされており、浸透圧変化を感知して適切に対応することで、体積を一定に保っている。これまでは、細胞外環境と接する細胞膜上の変化で感知するという考え方が主流となっていた。
今回の研究結果は、細胞が浸透圧ストレスを細胞内で感知しているという新しい発見となる。今後、高血圧疾患や浮腫、神経変性疾患などに対して液―液相分離を制御するなど、新しい治療法開発につながることが期待される。
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