東京大学と神奈川県立産業技術総合研究所は、蚊の触覚に存在する嗅覚受容体を人工の細胞膜上に組み込んだ匂いセンサーを開発し、呼気に混合した微量の腫瘍マーカーを嗅ぎ分けることに成功した。
東京大学は2021年1月14日、蚊の触覚に存在する嗅覚受容体を人工の細胞膜上に組み込んだ匂いセンサーを開発し、呼気に混合した微量の腫瘍マーカーを嗅ぎ分けることに成功したと発表した。神奈川県立産業技術総合研究所との共同研究による成果だ。
研究グループは、これまでに蚊の嗅覚受容体を人工細胞膜に組み込むこむことで、匂いセンサーとして活用できる可能性を見出していた。しかし、匂い分子を水溶液に溶解しなければ識別できないため、多くが水に難溶性である匂い分子をどのように嗅覚受容体に届けるかが課題であった。
今回研究チームは、撥水コートを施した微細なスリットを搭載することで、効率的に匂い分子を水溶液に分配する匂いセンサーを作製した。人工細胞膜を形成する液滴の下に配置したスリットに匂い分子を含む気体を流すと、気液界面で生じるせん断力により水溶液が撹拌(かくはん)され、難容性の匂い物質が取り込まれる仕組みだ。
作製した匂いセンサーは、人間の呼気に混合したオクテノール0.5ppbを検出した。オクテノールは、肝臓がんに関連するバイオマーカーと考えられている。
生物の持つ嗅覚受容体は、匂いやフェロモンを1分子レベルで識別できる。そのため、嗅覚受容体を利用するバイオハイブリットセンサーは、体臭による病気の診断、環境評価など幅広い応用が期待されている。呼気との混合状態で匂いを検出できれば、簡便な呼気検査が利用できる。今回使用した蚊の嗅覚受容体は、無細胞タンパク質合成系により合成しており、同じ方法で異なる嗅覚受容体を得ることも可能だ。
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