試作型ナシの開発は、「世界初」(マツダ)という骨格部品でも実践されている。マツダ3から順次採用する新世代車両構造では、フロントピラーインナーやヒンジレインフォースメント、フロントピラーレインフォースメントに引っ張り強度1310MPa級の超高張力鋼板の冷間プレス部品が使われるのが世界初だという。「超高張力鋼板は材料費に対して高い強度が得られるため、コスト効率のよい軽量化が図れる。成形は熱間プレスでやるのが普通だが、設備が増えるのでどうしても冷間プレスでやりたかった。鉄鋼メーカーの協力があって実現した」(マツダ役員)。
高張力鋼板は、引っ張り強度が上がるほどスプリングバックが強くなり、精度の高い成形が難しい。それだけでなく、超高張力鋼板のスプリングバックの増加を単純に織り込んで金型を設計しただけでは、金型の肉厚を確保できず、そもそも部品を生産することができないという難しさがあるそうだ。担当者は「金型を試作せず、CAEとモデルベース開発で問題をつぶしてきたが、成形のトライアル前日はよく眠れなかったほど緊張した。扱いが大変な材料なので本当に成形できるのか心配だった」と笑う。
「スプリングバックの量を予測できないと、金型が作れなくて、部品ももちろん作れない。試作で金型も無駄になる。今回、開発の初期から鉄鋼メーカーも参加し、材料の特性や性能の試験データを提供してもらってCAEのパラメータとして落とし込んだ。こういうボディーを作りたいというデザイン側のニーズと、この材料でどう作れるかという生産側の意見をモデル上で調整した。その上で、ねじれや反りを抑制する対策を決め、その対策が衝突性能に影響しないことも検証した。机上で全て課題をつぶすには、CAE技術と材料のデータベースが必須だ」(マツダの担当者)
さらに引っ張り強度の高い1470MPa級の超高張力鋼板の冷間プレスへの準備も進めている。基本的には1310MPa級の延長線上の取り組みとなるが、より緻密にCAEで予測し、細かく網羅的に検証しなければ量産はできないとしている。
試作型をなくすマツダの取り組みは、過去30年ほどの失敗や試行錯誤が土台となっている。「なるべく試作したくないのは、コストの問題もあるが、なるべく型の修正をしたくないからだ。型を試作して、成形して、型を微調整して成形して確認して……という繰り返しがない方がラクだ。仕事はラクな方がいい。型の修正なしで終わらせたいので、CAEやモデルベース開発で課題をつぶすことに力を入れる。過去には、門型加工機を壊すような大きな失敗もあったが、試行錯誤の積み重ねがあって今、型を試作せずに量産にめどをつけることができるようになってきた」(マツダ 常務執行役員 グローバル生産・グローバル物流・コスト革新担当の向井武司氏)。
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