樹脂バンパーの金型にも独自の工夫が施されている。マツダは射出成形シミュレーションを活用し、成形後に狙い通りの形状が出るよう逆算して、初めからねじれた状態の金型をつくった。これにより、金型の調整なしで量産に移行しているという。
従来の射出成形用の金型で生産したバンパーでは、「車両に蛍光灯の光を当てたときに、光の映り込みが他のパネルからきれいにつながらなかった。段差や隙間といった図面の寸法自体は満たしているが、法線ベクトルが滑らかにつながらなければ、映り込みがつながっていないと感じてしまう」(マツダの担当者)。
従来の映り込みの課題は、樹脂バンパーの微妙なねじれが原因だった。3面鏡を少し開くと映る風景が変わるように、わずかな変形によって映り込みがつながらなかったのだという。面としてパネルからバンパーまでつながる状態を再現するには、成形の精度を上げる必要があった。
「樹脂が成形で小さくなる分を織り込んだ相似形で金型をつくるのは一般的にやられているが、収縮は不均一に起きる。また、ねじれの傾向までは分かっていたが、変形量をシミュレーションするのが難しく、逆算して成形する金型は他ではやっていない。どのような形で、どのように樹脂を流せば変形しにくいかを分析し、変形量の絶対値まで予測した。CAEで求めた変形量を金型に落とし込んだことで、逆算した成形が成功している」(マツダの担当者)
今後は、バンパーの裏などに使う、繊維を含む樹脂製機能部品も対象に変形を逆算するシミュレーションに取り組む。射出成形中の、樹脂の収縮と繊維の絡み具合の変化を予測する。樹脂の機能部品の構造がゆがむことで、表面もゆがみ、見え方に影響すると考えられるためだ。
従来モデル比で20mm細くしたAピラーの金型の設計にも、CAEが活用されている。マツダ3は、先代モデルである「アクセラ」と比べて、ボンネットを低くしてピラーを寝かせることでデザイン性を高めている。デザインと運転に必要な視界の確保を両立するには、ピラーを細くする必要があった。
マツダ3のAピラーは、固定した材料を横から曲げ込む格好で成形している。成形後は金型内部の可動部品が動いて、パネルを搬出する。しかし、ピラーを細く成形するため金型内部の肉厚が低下してしまい、金型の強度や剛性に対して、定量的な判断が必要になった。マツダでは光ファイバー式のひずみ計測器で金型の変形を測定する技術を開発し、高精度なCAEによって金型に必要な最低限の肉厚を机上で分析できるようにした。その上で、シミュレーションに基づいて可動部品の動かし方を従来より変更し、幅の寸法を追求したという。
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