小型電子機器やモバイルバッテリーの発火事故、ごみ収集車や集積場の火災、電気自動車からの出火など、リチウムイオン電池の普及に伴い、それに起因する発火・炎上はたびたび問題となっています。発熱、発火、爆発といった事故は用途を問わず大きな問題となりかねない事象です。今回は「リチウムイオン電池の異常発熱問題」について解説していきたいと思います。
航空機で、あるトラブルが多発したことを覚えていらっしゃるでしょうか。2013年1月7日、成田国際空港からのフライトを終えて米国ボストンのジェネラル・エドワード・ローレンス・ローガン国際空港で駐機していたJAL008便の機体内部のリチウムイオン電池が発火しました。
それから日を置かず、2013年1月16日、山口宇部空港発、東京国際空港行きのANA692便が香川県上空を飛行中に、電気室での不具合を検知して高松空港に緊急着陸するという出来事もありました。
これらのトラブルの共通点は、民間旅客機としてリチウムイオン電池を初めて採用した「ボーイング787」で起きたということです。米国連邦航空局はこれを受けて米国籍の同型機に対して運航の一時停止を命じ、世界各国の航空当局に対しても同様の措置をとるように求めたため、世界各国の運航中の機体全てが運航停止となる事態となりました。
「ボーイング787のバッテリー問題」とも呼ばれるこの出来事は、リチウムイオン電池の安全性に対して世間の注目が集まった事例の1つではないでしょうか。
小型電子機器やモバイルバッテリーの発火事故、ごみ収集車や集積場の火災、電気自動車からの出火など、リチウムイオン電池の普及に伴い、それに起因する発火・炎上はたびたび問題となっています。発熱、発火、爆発といった事故は用途を問わず大きな問題となりかねない事象です。
今回は「リチウムイオン電池の異常発熱問題」について解説していきたいと思います。
リチウムイオン電池の異常発熱の多くは、電池の「プラス」と「マイナス」が直接つながる「短絡(ショート)」が原因といえます。短絡すると瞬間的に大きな電流が流れるとともに激しい熱も発生します。リチウムイオン電池には可燃性の材料も使われているため、激しい発熱は同時に発火・爆発などにつながる危険性があるのです。
短絡の要因の中でも代表的なものは「外部衝撃」です。電池を落とす、何かが突き刺さる、形状が変わるほど押しつぶす、折り曲げるなど、電池の中の構造を破壊するような衝撃が加わることで、正極(プラス)と負極(マイナス)がつながり、短絡の状態が生じます。最近、ごみ収集車や集積場で発生する火災の多くも、一般ごみに混入したリチウムイオン電池が圧縮されることによるものだと考えられています。
このような「外部衝撃」以外にもリチウムイオン電池の異常発熱の要因は複数存在します。さらに、これら複数の要因が複合的に関与する場合もあるため、なかなか漏れなくダブりなく整理するのは難しいものですが、一例としてまとめてみると、図のようになります。
大きい要因は「過充電」「外部短絡」「内部短絡」の3つに分けられます。このうち「内部短絡」については先述の外部衝撃を含め、さらに細分化することができます。これら3つの大きな要因について、順番に考えていきます。
まずは「過充電」です。前回のコラムでも触れた通り、電池を満充電以上に充電することで正極材料の構造崩壊や電解液の分解とともに起こる問題です。また、後述する「リチウム金属析出」を引き起こす要因の1つともされています。これを防ぐためにも、リチウムイオン電池の充電はしっかりと安全が確認された設備や環境でのみ実施するようにしましょう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.