冒頭で紹介した「ボーイング787のバッテリー問題」ではその後、国家運輸安全委員会(NTSB)による事故調査が行われました。NTSBは2014年9月下旬に公表した最終報告書の中で、リチウムイオン電池の内部短絡によって発煙に至ったと指摘しました。内部短絡そのものの原因については、コンタミや低温環境による金属析出がその可能性として挙げられたものの、電池が激しく損傷、炭化してしまったために原因の特定までは至らなかったとしています。
この事例から、リチウムイオン電池に起因する発火事故の多くは、事後検証による原因特定が困難であるということが伺えます。そのため、原因を特定し、「どのようにして問題の発生を防ぐか?」という視点ももちろん大切なのですが、万が一の事態の発生に備えた安全機構の設置や発生後の迅速な対応といった、「起こってしまった問題の被害をどのようにして最小限に抑えるか?」といった視点での対策も重要となります。
2019年3月、リチウムイオン電池の異常発熱問題に関する、ある訴訟が注目されました。ノートPCのバッテリーパックが発火し、やけどを負ったのは製品に欠陥があったためとして、製造元に対して製造物責任法(PL法)に基づく損害賠償を求めた訴訟です。判決で東京地裁はその欠陥を認め、損害賠償の支払いを命じたというものです。
この判決の中で裁判官は、事故後の調査で発火原因を特定できなかったものの使用方法自体は適正だったと指摘し、「発火が想定されないバッテリーパックが突然発火しており、通常有すべき安全性を欠いていたと推認できる」と述べています。
つまり、「原因を特定できなくてもPL法上の欠陥は認められ、賠償責任はある」との判決が下されたということであり、原因不明のままリコール・製品交換などを実施するだけでは、製造側の異常発熱問題発生後の対応としては不十分であるということです。
今後、電池搭載製品で異常発熱に起因する訴訟が起こった場合、この判決を踏襲される可能性は十分に考えられるため、製造・販売に携わる方々は、異常発熱やそれに付随する発火の問題について、より一層注意をするべきです。リコール・製品交換では事後対応として不十分である現状、製造側にはあらかじめ想定される問題を洗い出し、その対策となる安全機構を盛り込んだ製品設計が要求されているともいえます。
こういった対策を考えるために必要なのは「過去の事例」と「実機の検証」です。「過去の事例」についてはデータベースを活用することが有効です。例えば、日本で発生したさまざまな製品の事故やリコールの情報は製品評価技術基盤機構(NITE)が公式Webサイトにて公開しています。
そして、製品に施した対策が有効か、想定していない問題点がないかなど「実機の検証」をすることも大切です。しかし、そのような検証試験は危険を伴うこともあり、メーカー単独では実施が困難な場合も少なくありません。日本カーリットの危険性評価試験所では、製品の発火や爆発を伴うような試験でも安全に実施できる設備、試験環境をご提供しております。
繰り返しになりますが、リチウムイオン電池が普及する昨今、異常発熱およびそれに起因する発火事故は、ひとたび発生すれば非常に大きな問題となります。しかしその一方で、それらの多くは事後検証による原因特定が極めて困難です。電池を搭載した製品を製造するメーカー側は「過去の事例」と「実機の検証」を通し、その問題への対応を考える必要があるといえるでしょう。
また、製品を使用するユーザー側はメーカーが推奨する正しい運用方法を守り、必要以上に電池を酷使しないことが大切です。さらに、使い終えた電池は一般ごみに混ぜるのではなく適切な方法で処分するようにしましょう。
発火や爆発といった事象はどうしても目につきやすく、過度に危険な印象を抱きがちですが、電池は今や私たちの生活には欠かせない存在です。むやみに恐れるのではなく、適切な運用方法を守って上手に付き合っていきましょう。
日本カーリット株式会社 生産本部 群馬工場 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。日本カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。
「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
▼日本カーリット
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▼電池試験所の特徴
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▼安全性評価試験(電池)
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