リチウムイオン電池で発熱や発火が起きる要因を整理しよう今こそ知りたい電池のあれこれ(2)(2/3 ページ)

» 2021年03月08日 06時00分 公開

 次に「外部短絡」です。これは図のように電池の外部でプラスとマイナスが直接つながってしまう状態のことです。電池を保管・廃棄する際には正極や負極の端子をむき出しにせず、テープを貼って絶縁処理し、他の電池や金属製品との混載、結露するような環境への放置などは避けるようにしましょう。

外部短絡のイメージ(クリックして拡大)

 このような電池の外で生じる「外部短絡」とは異なり、電池の中で起こる短絡のことを「内部短絡」といいます。最初に挙げた外部衝撃による電池内部構造の破壊以外にも「セパレータ不良」「コンタミ」「金属析出」などが、その要因として考えられます。

 セパレータは電池の正極と負極の間に挟むことで、両極の接触および短絡を防ぐ役割を担っている隔膜です。製造不良や長期使用に伴う劣化などによって、セパレータ本来の役割を損ねる状態=セパレータ不良に陥った場合、内部短絡が起こりえます。

 次に「コンタミ」です。製造業ではおなじみの「コンタミネーション」(製造時異物混入)ですが、電池部材や製造装置などから電池の中に混入した異物がセパレータを突き破り、短絡を起こす可能性も考えられます。

電池の中で金属が析出する要因は

 そして「金属析出」ですが、これはさらに「リチウム金属」が析出する場合と、それ以外の金属が析出する場合とに分けることができます。

 リチウム以外の金属が析出する要因としては「コンタミ由来」「活物質由来」「過放電」がそれぞれ考えられます。例えば、コンタミした金属片がセパレータを破ることのないような非常に小さなものだったとしても、電池を使用しているうちにその不純物由来の析出物が大きく成長してしまうことがあります。また、製造時に金属コンタミをしていなかったとしても、活物質(電池の容量を担う電極材料)に使われている金属成分が原因となって析出してくる場合も考えられます。

 さらに「過放電」も金属析出の原因となります。こちらも前回の解説の通り、過放電の状態では負極から銅が溶け出してくるため、それがやがて析出物となってしまう可能性が考えられます。

 次に、金属析出の中でも「リチウム金属」の場合について考えていきます。勘違いされやすいですが、リチウムイオン電池は金属としての「リチウム」をそのまま電池内に用いることは基本的にはありません。あくまでも「リチウムイオン」(Li)の形でのみ存在し、電池反応に寄与しています。しかし、条件によってはリチウム金属が電池内に析出してくる場合があります。

 リチウム金属の析出は、電極の塗工ムラや積層ズレといった製造上の不良、電極の厚み、面積、組成といった設計上の問題に由来することもあれば、電解液劣化や、周辺温度、電池に流す電流値といった電池の使用環境に起因する場合もあります。リチウム金属析出における最大の要因は、少し硬い言い方をすれば「負極中のリチウムイオン濃度分布の不均一化」です。つまり、何らかの要因によって局所的にリチウムイオンが集まってしまうことで、そこから金属として析出しやすくなるのです。

(再掲)リチウムイオン電池で異常発熱が起きる主な要因(クリックして拡大)

 製造上の不良や設計上の問題などは、実際に製品を使用するユーザー側では対処できない領域ですが、電解液劣化によって生じた分解物の電極表面への堆積、大電流による急速充電、低温環境下での運用などによっても、このイオン濃度分布の不均一化が起こりやすくなるため、メーカーの推奨仕様範囲を守り、電池に大きな負荷をかけない運用を心掛けることが大切です。

 こういった異常発熱要因の中でも、電池の製造不良に関するものについては、安価な粗悪品が市場に流通するケースも見受けられはするものの、各社の品質管理向上の取り組みが進められている現状では大きな問題となりにくいでしょう。大部分の製品において製造品質自体は一定水準に達しており、過充電などを防ぐためのバッテリーマネジメント技術や電池の劣化を考慮した運用方法といった要素の方がより大きく寄与すると考えられます。

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