日産自動車はこのほど、追浜プルービンググラウンド(神奈川県横須賀市)で新たな衝突安全実験場を稼働させた。電動車の開発で衝突実験による計測や評価が増加していることに対応する。衝突安全実験場が3カ所となることで、実験実施能力(回数)は1.6倍に増える。
日産自動車はこのほど、追浜プルービンググラウンド(神奈川県横須賀市)で新たな衝突安全実験場を稼働させた。電動車の開発で衝突実験による計測や評価が増加していることに対応する。投資額は50億円。1986年に日産テクニカルセンター(神奈川県厚木市)に開設した1カ所目、2005年に追浜プルービンググラウンドに開設した既存棟に続き、国内3カ所目となる(追浜プルービンググラウンドの衝突安全実験場としては2棟目)。
衝突安全実験場が3カ所となることで、実験実施能力(回数)は1.6倍に増える。解析による衝突安全性能の作り込みと、リアルな実験での確認の両輪で開発期間の短縮に貢献する。
今後は3カ所の衝突実験場を併用する体制で評価を実施していく。日産テクニカルセンターの衝突安全実験場は前面衝突を、追浜プルービンググラウンドは側面衝突と後面衝突を担当する。追浜プルービンググラウンドでは必要に応じて前面衝突も実施できる。
これまでは実験の順番待ちに時間を要しており、海外拠点で実験を実施したり、社外に委託したりすることでカバーしていた。新設した衝突安全実験場(以下新棟)は、規制当局とのコミュニケーションや独自の分析により2030〜2031年ごろまでの日産の新車開発やNCAP(新車アセスメント)を想定した設備とし、3カ所の併用体制で海外拠点や社外に振り向けることなく必要な実験をカバーできると見込んでいる。
電動車の衝突実験は、エンジン車よりも時間がかかる。実験前の準備として、バッテリーなど高電圧部品を車両から降ろした上で計測器を取り付け、実験後に電動パワートレインの部品を1つ1つ確認して評価する必要がある。衝突レーンでの実験自体の所要時間はエンジン車と変わらないが、実験前後の作業でエンジン車の1.5倍の時間がかかる他、取り付ける計測器の数量は1.7倍に増えている。
こうした作業時間が実験の順番待ちのボトルネックである点に着目して、新棟では実験前の準備や実験後の評価を行う「ピット」を大幅に増やした。日産テクニカルセンターの2倍以上、追浜プルービンググラウンドの既存棟と比べて6倍近くのピット数とした。新棟の衝突レーン数は1本のみだが、追浜プルービンググラウンドの既存棟には多くの衝突レーンが設けられている。
新棟には実験前の車両保管エリアや実験後の秘匿車両を処分するプレス機を設け、追浜プルービンググラウンドとして衝突実験の業務が完結するようにした。これまでは厚木市の日産テクニカルセンターとの行き来が発生していたが、同じ神奈川県内とはいえ移動に時間がかかっていた。こうした時間を短縮する。
実験が決まると、新棟の建屋屋上にある車両保管エリアからエレベーターで車両を降ろし、作業エリアのピットに移動させる。ピットには車両や降ろしたバッテリーを持ち上げるリフトが備えられている。作業エリア内には、実験時に車内に乗せるダミー人形の整備室や部品保管庫がある他、同じフロア内にエンジニアが業務を行う事務所エリアなどが設けられているので、実験の準備やコミュニケーションを円滑に進められる。
準備が完了すると、車両は実験エリアのあるフロアに移動する。車両の直進性などを確認した上で衝突実験に移る。北米の法規のように、衝突時の横ズレが車幅の1%までしか認められない試験もあり、真っすぐ走らせることは重要だ。衝突させる速度も厳密な運用が要求され、正確な試験のためのメンテナンスが欠かせない。
実験後の車両は作業エリアのピットに戻って評価を行う。衝突実験後のバッテリーは、安全性が確認できれば保管エリアへ、安全上の懸念があるものは設計部署で引き取るという。
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