100年に一度の変革期にさらされている日本の自動車業界が厳しい競争を勝ち抜くための原動力になると見られているのがSDVだ。本連載では、自動車産業においてSDVを推進するキーパーソンのインタビューを掲載していく。第4回は、アップデートを果たした「モビリティDX戦略」の狙いについて経済産業省の斎藤翔太氏に聞いた。
日本国内における自動車業界を中心としたモビリティのDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けて経済産業省と国土交通省が2024年5月に発表したのが「モビリティDX戦略」だ。「SDV(ソフトウェアデファインドビークル)」「モビリティサービス」「データ利活用」の3領域でさまざまな施策に取り組み、国内のモビリティ産業の強化を進めることで、2030年および2035年における「SDV日系シェア3割」という目標の達成を目指している。
しかし、自動車業界を取り巻く世界的な市場や技術の動きは激しく、モビリティDX戦略の発表からの1年間で新たな状況が生まれている。中国と欧州を除いてEV(電気自動車)市場拡大のペースが減速するとともに、第2次トランプ政権の発足により地政学上の新たなリスクも浮上しつつある。さらに、先進的なAI(人工知能)技術を適用した自動運転技術である「E2E(End to End)モデル」への注目が高まっている。
これらの状況に対応すべくモビリティDX戦略も2025年6月にアップデートされた。2030年および2035年における「SDV日系シェア3割」という目標は変わらないものの、世界の最新の状況に対応すべく新たな施策を追加することで戦略を“アップデート”する狙いがある。
そこで、経済産業省 製造産業局 自動車課 モビリティDX室 係長の斎藤翔太氏に、モビリティDX戦略のSDV領域を中心としたアップデートの背景や方向性などについて聞いた。
製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進みつつある中で、トヨタ自動車を率いる豊田章男氏によって印象付けられた「100年に一度の変革期」という言葉に代表される通り、自動車産業も大きな変革の波にさらされている。その変革の波を端的に示す言葉として知られるのがダイムラーが2016年9月のパリモーターショーで提唱した「CASE」(コネクテッド、自動運転、サービス/シェアリング、電動化)だ。そして、このCASEの推進を支える原動力になると見られているのがSDV(ソフトウェアデファインドビークル、ソフトウェア定義型自動車)である。本連載「SDVフロントライン」では、自動車産業においてSDVを推進するキーパーソンのインタビューを掲載していく。
MONOist モビリティDX戦略の発表から約1年でアップデートを発表しました。政府施策でこのように早いペースでアップデートを発表するのはあまりないと思うのですが。
斎藤氏 政府として自動車産業の産業構造変化は、カーボンニュートラルと関わりの深いGX(グリーントランスフォーメーション)とDXの2軸で進むと見ており、モビリティDX戦略を発表した際にもGX対応の施策との両輪での対応になることを示している。しかしこの1年間で、モビリティDXを取り巻く外部環境は大きく変化した。
まず、SDVの重要技術を巡る開発競争がさらに激化している点が挙げられる。自動運転技術において最先端のAI技術を活用したE2Eモデルの進展が著しく、グローバルに自動運転サービスの展開を始めたプレイヤーも出始めている。これらの進化がソフトウェア技術によって支えられているわけで、SDVの開発スピードはさらに加速しているといえる。
また、地政学リスクの高まりも無視できない。モビリティDXの観点では2025年1月に発表され同年3月に施行された米国のコネクテッドカー最終規則は自動車業界のサプライチェーンに大きな影響を与える可能性がある。国家安全保障上の懸念から中国およびロシア関連のコネクテッドカーの輸入/販売を規制する内容だが、コネクテッドカーに搭載されるハードウェアとソフトウェアも規制の対象になっている。
もともとモビリティDX戦略そのものは、AIやサイバーセキュリティ対応の必要性もあってアップデートする予定だった。しかしこの1年間の環境変化の大きさもあり、早い段階でアップデートを発表することとした。ただし、基本的な方針は変えていないので、あくまでアップデートであり改訂や第2版ではない。
MONOist モビリティDX戦略においてSDVは中核に位置付けられる存在です。あらためて、モビリティDX戦略におけるSDVの位置付けを教えてください。
斎藤氏 モビリティDX戦略においてSDVは「制御系ソフトウェアをアップデート可能なOTA(Over the Air)機能を搭載した車両」と定義している。ソフトウェアをアップデートできるので、自動車を購入後も新しい機能を追加できることがユーザーにとっての大きな利点になり得る。米国のテスラ(Tesla)の車両機能のアップデートのイメージが強いが、この1年で米国と中国を中心に新たなサービス提供などが始まっている。
日本の自動車業界も手をこまねいているわけではない。トヨタ自動車が自動車OSといわれる「Arene」を初めて採用する新型「RAV4」を発表しSDV量産の第一歩を踏み出しているし、ホンダも「ASIMO OS」を搭載する「Honda 0シリーズ」をグローバル展開する計画を発表している。
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