新造フェリー「けやき」の省エネ船型がもたらす「燃費×定時×快適」の融合イマドキのフナデジ!(8)(1/3 ページ)

「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する本連載。第8回は、新日本海フェリーの新造船「けやき」が導入した最新の省エネ船型について紹介する。

» 2025年11月13日 06時00分 公開
[長浜和也MONOist]

 日本海の“幹線”航路ともいえる舞鶴−小樽航路に就航予定の新日本海フェリーの新造船「けやき」は、全長199.0m、総トン数約1万4300トン、旅客定員286人、航海速力28.3ノット、積載はトラック約150台+乗用車約30台。船内は二層吹き抜けのフォワードサロンや各種個室など外航客船に匹敵する設備を有する。

 本稿では、このけやきが省エネ船型として導入した「垂直ステム」「ダックテール付きバトックフロー船尾」「省エネ型減揺システム(ART[アンチローリングタンク、減揺タンク]+フィンスタビライザ)」、そして「爆速すぎるカーフェリー」の導入理由について解説する。

三菱造船で2025年4月29日に進水した「けやき」 三菱造船で2025年4月29日に進水した「けやき」。右側の画像から垂直ステムとその直下に設けられたバルブ形状が確認できる[クリックで拡大] 出所:三菱造船Webサイト
「けやき」の船内施設のイメージ 「けやき」の船内施設のイメージ。船室でもスイートクラスを用意するなど、その内容は外航客船とそん色ない[クリックで拡大] 出所:新日本海フェリーWebサイト
航路 舞鶴〜小樽
就航 2025年11月14日予定
全長 199.0m
総トン数 約1万4300トン
旅客定員 286人
航海速力 28.3ノット
積載 トラック約150台、乗用車約30台
「けやき」の主要目

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「けやき」が導入する垂直ステムとダックテールとは

 けやきは、新日本海フェリーとJRTT(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)の共同発注による2隻シリーズの1番船だ。2025年4月に命名/進水式を終え、2025年11月14日に就航の予定だ。

 けやきが導入する技術的コアは、垂直ステムやダックテールといったキーワードで訴求される「最新省エネ船型の採用」だ。この新機軸船型は従来船比で約5%の省エネを見込むほか、ARTとフィンスタビライザを組み合わせた横揺れ抑制と推進抵抗低減を両立する。

 なお、この建造に対しては国土交通省および経済産業省による令和5年度「AI・IoT等を活用した更なる輸送効率化推進事業費補助金(内航船の革新的運航効率化実証事業)」で、令和5年度(2023年度)以降に実施する「内航船の革新的運航効率化実証事業」として採択されている。その採用理由でも、「内航フェリーでは初採用となるダックテールを含む最新鋭の省エネ船型、アンチローリングタンクと抵抗低減型フィンスタビライザを組み合わせた省エネ型減揺システム、主機関と発電機関の燃費を最適化する高効率推進プラントの採用により、省エネ運航を実現する」と評価されている。

 垂直ステムは、船首前縁を上から下までスパッと立て、断面を鋭くするアプローチだ。近年は喫水差が大きい運航(積載変動や季節海象差を起因とする)で、従来のバルバスバウ(球状船首)が最適域を外しがちになる課題が再認識されおり、造波抵抗の総量を最小に保つ“速力と喫水の広い実海域帯”を狙って、あえてバルブを縮退もしくは撤廃し、垂直に立てた船の舳先=縦方向の“刃”で波の生成と干渉を制御する方法が採用されつつある。

 大阪大学などの研究による最新の知見では、上から下まで垂直にとがらせることで波の生成と位相を整え、平均的な実海域で利得が出るという。フェリーのように満載喫水が変動しやすい船種では、特に有効とされている。

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