新造フェリー「けやき」の省エネ船型がもたらす「燃費×定時×快適」の融合イマドキのフナデジ!(8)(2/3 ページ)

» 2025年11月13日 06時00分 公開
[長浜和也MONOist]

 けやきを建造した三菱造船のグループ幹事企業である三菱重工は、英文リリース(それは多分に海外へのプロモーションも兼ねているだろう)において「KATANA BOW」の語を用い、垂直船首形状を“最新省エネ船型”の柱として訴求する。そこでは、船首波の減衰と船体周り流れの整流(圧力勾配の平滑化)で抵抗低減を図るとしている。フェリー特有の高頻度往復と変動載荷条件下で、平均燃費を押し下げる合理的な説明といえる。

「けやき」の姉妹船となる「はまなす」も2025年10月9日に進水している 「けやき」の姉妹船となる「はまなす」も2025年10月9日に進水している。進水式の公式画像では船首下のバブル形状がより明瞭に確認できる[クリックで拡大] 出所:三菱造船Webサイト

バトックフロー船尾×ダックテールで後流を“しつける”

 けやきでは、船尾部の流れ制御に関して「バトックフロー船尾」(Buttock-flow:縦方向流線整流)と「ダックテール」(ducktailもしくはstern-flap)による併用最適化設計も採用している。

 バトックフロー船尾とは、船底からトランサム(船尾端)に向かって進む流れを、船体中心線にほぼ平行な縦断線(buttock lines)に沿って滑らかに流し、剥離や交差渦を抑制することで、抵抗および推進効率を改善する手法を指す。底板の上がり角(rise of floor)、ビルジ半径(bilge radius)、トランサム没水量(transom immersion/transom draft)といったパラメーターが、実模型試験の結果でも抵抗および流線分布に大きな影響を及ぼすことも今日では知られている。

 ダックテールは、トランサム直後に小さな延長板を取り付けて、船尾下面の圧力回復を促進することで、トランサム背後の渦と離流、交差を抑え、後流を整えることで4〜7%の抵抗低減が得られるとされており、CFD(流体解析)上でも推進器周辺からトランサム後流の速度分布均一化効果が確認されている。加えて、ダックテールを形成する“stern-flap”の角度や長さの最適化により、後流の整流と推進性能改善、抗力低減が複数のケースで報告されている。

ダックテールが後流を整える効果をシミュレーションで図示した結果 ダックテールが交流を整える効果をシミュレーションで図示した結果。右側にある画像の上段が従来船型のコンテナ船で、同中段がダックテール3m、同下段がダックテール6m。色が黒いほど乱流の影響が大きいことを示す[クリックで拡大] 出所:An Investigation into the Use of Ducktail at Transom Stern to Reduce Total Ship Resistance By I Ketut Aria Pria Utama

 これらの技術を併用するけやきでは、バトックフロー設計による船底から船尾にかけて縦に整流された流線群を作ることで、推進器前方の入流速度分布を均質化し、剥離や渦発生によるロスを低減する。さらに、ダックテールを取り付けることで、トランサム後端付近の圧力回復を助け、かつ、後流の剥離や交差をさらに抑制する。具体的には、ダックテールによってトランサム背後の低速域/渦域を減らし、プロペラ入流域での速度勾配を滑らかにすることで、推進器/舵の相互干渉損を低減できる。

 これをフェリー運航という観点から見ると、長距離航海かつ多軸推進で荷役条件が一定でなく、入出港機会が多いという運航事情が故に、広い速力域にわたって燃費抑制と定時性、さらには快適性が求められる。このような船舶において「広速域で抵抗低減を実現する設計」を導入するメリットは大きい。燃費面での改善だけでなく、波浪、揺れ、さらには騒音低減や機器負荷低減にも寄与し得る(特に波浪の厳しい冬の日本海では)。

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