リチウムイオン電池を車載用にするための幾つものハードル、そして全固体電池へいまさら聞けない 電装部品入門(27)(1/3 ページ)

クルマのバッテリーといえば、かつては電圧12Vの補機バッテリーを指していました。しかし、ハイブリッドカーの登場と普及により、重い車体をモーターで走らせるために繰り返しの充放電が可能な高電圧の二次電池(駆動用バッテリー)の重要性が一気に高まりました。後編では、ニッケル水素バッテリーの欠点だったメモリ効果をクリアしたリチウムイオンバッテリーについて紹介します。

» 2019年06月04日 06時00分 公開

前編はこちら:ニッケル水素は駆動用電池でまだまだ現役、長寿命化の課題「メモリ効果」とは

 前編では、トヨタ自動車のハイブリッドカー「プリウス」の駆動用バッテリーとして採用されたニッケル水素バッテリーと、その特性、長寿命化を妨げる要因であるメモリ効果についてお話ししました。後編では、ニッケル水素バッテリーで課題だったメモリ効果をクリアしたリチウムイオンバッテリーについてご紹介します。

リチウムイオンバッテリー

 メモリ効果が実感としてはほぼゼロの次世代充電池の代表格が、リチウムイオンバッテリーです。一般的にリチウムイオンバッテリーといえば携帯電話機やデジカメなどのモバイル機器のバッテリーとして最も広く採用されているイメージがあるかと思います。

 ニッケル水素バッテリーなどと比較して何が優れているのかというと、同じ重さ、体積に対するエネルギー密度が2〜3倍も高いことから、同じエネルギー容量を求めた際に非常にコンパクトに収まります。1セルあたりの公称電圧も3.6V〜3.7Vとなっており、ニッケル水素バッテリーや鉛バッテリーよりもはるかに電圧が高いことが分かります。

 さらに充放電サイクルも優れており、メモリ効果の影響を除いたとしても優位性があります。特に携帯電話機などはスペース効率や充放電サイクル(長寿命化)が重要となりますので、リチウムイオンバッテリーは最適な充電池であると言えますね。もちろんメモリ効果もほぼゼロで自己放電も少ないことから、実使用下における使い勝手としてはニッケル水素バッテリーよりもかなり優位にあります。

 最近はかなり改良が進んで大きな問題は耳にしなくなりましたが、このリチウムイオンバッテリーは非常に不安定な性質を持っており、特に充電時の電圧を精密に管理しなければ発熱、発煙、発火に至る事が報告されています。ある携帯電話機のバッテリーが飛行機内で発火して……という社会問題も記憶に新しいですが、基本的に非常に繊細な構造が求められている構造をしていることから、微細な異物混入などがきっかけで内部ショートが発生し、リチウムイオンバッテリーに使用されている可燃性の電解液が発熱して発火に至ったという事象が目に付きます。

 参考までにリチウムイオンバッテリーが劣化したか否かを判断する1つの基準として、バッテリー本体が膨れてくる(内部でガスが生じる)という症状があります。

 スペースが限られている携帯電話機においてバッテリーに膨れが生じると、もちろんバッテリーカバーが取り付けられなくなるという事象に直結します。実際にこの問題が原因でバッテリー交換を余儀なくされた方もいらっしゃることでしょう。

 他にも充電時に高温になる特性があるため、実際に火傷をしてしまったという報告があります。また劣化を早める使い勝手として、リチウムイオンバッテリーは高温下における使用に弱いという特徴があります。これらを合わせますと、充電しながら使用する使い方はリチウムイオンバッテリーにとって非常に寿命を縮めやすい使用環境であることが分かります。また、この使い方が最もバッテリー本体の膨張につながりやすいようです。

「車載用」リチウムイオンバッテリーの難しさ

 このようにリチウムイオンバッテリーを安全に使用するためには、安全性を含めた制御システムをセットで考えなければ危険を伴うこともあり、基本的にはバッテリーパック(リチウムイオンバッテリーと制御システム一式)としての提供しか行われていません。つまり、他に転用する目的でセル単体を手に入れようと思っても簡単には入手できません。いや、浅はかな考えで転用しようとすると必ず発火などの事故に直結します。

 発火といった危険なワードが出ていることから少し怖さを感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、設計段階での制御が適切であれば基本的に問題はありません。ただし自動車への転用となるとまた少し異なった問題があります。ハイブリッドカーにニッケル水素バッテリーが搭載された当初からリチウムイオンバッテリーは実用化されていましたが、次のような複数の問題が解消されるまでは自動車への適用は不可能と考えられました。

 まずは、微細な異物混入だけでショートが発生するほど繊細な構造であることです。自動車は事故などによる強い衝撃を受ける可能性が確実に存在するため、バッテリーを格納している部位に外的な応力がかかった時点で発火するかもしれないような危険物を搭載することはできません。

 事故は事故であり、メーカーの責任ではないという論法もなくはないのですが、事故を起こすと車両火災に至るような事実が世間に周知された時点で誰も怖くて買えません。いや、そもそも売ってはいけませんよね。密閉空間である自動車に取って発火は乗員の命に直結する重大事故になりますので、発火の可能性があれば商品として成り立ちません。

 つまり、外的応力によって内部ショートが発生したとしても、局部的な電流遮断ができて発火などに至らない確実な安全システムの構築が必要です。これに関連したお話として、携帯電話機を落下させてしまったことによる外的応力が原因でリチウムイオンバッテリー内部がショートして発火に至った問題が発生したこともあります。衝撃の強さで言えば非常に弱い部類だと思いますが、そのレベルでもショートしてしまう可能性を秘めているほど精密さが求められる1つの参考事例といえるでしょう。

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