20年越しに復活したテクノロジーが自動車の進化に貢献する……かもMONOist 2025年展望(1/3 ページ)

車載用としては採用が早すぎた技術が、民生用など他の用途の中で時間の経過とともにこなれて、当初の車載用のコンセプトに改めて貢献できるというケースを見かけます。イノベーションの種は過去にあるのかもしれません。

» 2025年01月15日 15時15分 公開
[齊藤由希MONOist]

 2005年9月、旧富士通テン(現デンソーテン)は運転席と助手席から異なる映像を見ることができる「デュアルディスプレイ機能」を搭載したカーナビゲーションシステム「ECLIPSE DUAL AVN」を発売しました。運転席向けに地図を表示しながら、助手席からはテレビなどの映像を視聴できる点が大きな特徴です。

2005年発売のデュアルディスプレイ機能対応カーナビ。2方向で映像を表示できることを示したイメージ画像[クリックで拡大] 出所:デンソーテン

 そのディスプレイはシャープが手掛けました。2002年に開発した、左目と右目に微妙に異なる映像を見せる立体視ディスプレイの技術を応用しています。

 当時のカーナビゲーションシステムは、映像ソフトの再生やテレビの視聴などエンターテインメント機能を充実させるのがトレンドでした。ただ、走行中は映像表示機能が制限されています。これではエンターテインメント機能が生かされていないのではないか……という点に着目し、デュアルディスプレイ機能が開発されました。

 ECLIPSE DUAL AVNは後付け用として市販するだけでなく、同時期に発売されたトヨタ自動車の「アルファード」の特別仕様車でも純正カーナビとして採用されました。しかし、デュアルディスプレイ機能はその後定着しませんでした。シャープのベテラン技術者は「画素数が十分ではなかった」と当時を振り返ります。デュアルディスプレイ機能は運転席向けと助手席向けの画素を交互に並べることで実現しており、画素数は半分に落ちてしまうからです。

復活した2方向ディスプレイ、もちろんシャープも参戦

 それから20年近くたった2024年8月、デュアルディスプレイ機能と同じコンセプトが再び登場します。ジャパンディスプレイ(JDI)は1つのディスプレイで運転席と助手席向けにそれぞれ異なる映像を表示しながら、左右からのタッチ操作を識別できる車載用ディスプレイ「2ビジョンディスプレイ」を開発したと発表しました。左から見える画像と右から見える画像の画素を交互に並べるのは、2005年のデュアルディスプレイ機能と同じです。

 ジャパンディスプレイは独自の画像処理エンジンによってHD相当の高画質を確保しました。見た目の解像度は177ppiで、車内で見る上で実用的に十分な解像度を確保したといいます。需要に応じて200ppi程度までカバーします。すでに複数の受注が決まっており、ジャパンディスプレイは2025年にも2ビジョンディスプレイを量産する予定です。2026〜2027年をめどに、2ビジョンディスプレイの有機EL(OLED)化も進めます。

ジャパンディスプレイが開発した「2ビジョンディスプレイ」[クリックで再生]

 ジャパンディスプレイの2ビジョンディスプレイは、2つの画像が混ざり合って見える現象「クロストーク」の対策で専用開発のASICを採用しました。クロストークの発生状況を解析して補正することで、クロストークのないクリアな画像を実現します。また、1つのパネルの中に左右の映像を分けるバリアを形成するプロセスを刷新したことで高精細さも確保しました。

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