遠赤外線カメラの活路は、かつてのように単体で搭載するのではなく、可視光カメラを補完することがポイントです。遠赤外線カメラを手掛けるテレダイン・フリアーとの技術提携を2024年1月に発表したヴァレオは、車載グレードのナイトビジョンカメラと、可視光カメラと併用するデモンストレーションを日本で同年5月に初披露しました。
夜間を想定すると、可視光カメラで赤信号を、遠赤外線カメラで人を検知することができます。昼間の場合は、逆光などで前方がまぶしくて肉眼や可視光カメラでは見えにくい状況でも、遠赤外線カメラが物体を検知します。
イメージセンサーを開発する企業も夜間や逆光での性能を強化していますが、可視光カメラと遠赤外線カメラを併用することが安全性向上に貢献するとヴァレオは見込んでいます。
「遠赤外線カメラは本当に真っ暗でも見ることができて、暗いところで黒い服を着ている人でも検出します。イメージセンサーも進化していますが、不利な条件が重なると難しい場面があると考えています。逆光も同様です。イメージセンサーの進化だけを頼りにするのではなく、遠赤外線カメラのように違うテクノロジーを入れることで性能や安全性が飛躍できると考えています」(ヴァレオの担当者)
ヴァレオは今後2〜3年でナイトビジョンカメラを製品化する計画です。ヴァレオと技術提携するテレダイン・フリアーは、遠赤外線カメラだけでなく、可視光カメラや映像解析システムなども手掛けており、防衛用から産業用、コンシューマー向けまで幅広く展開しています。
かつては高価なオプション装備にとどまっていた技術が、コストダウンや使い方の見直しによって再び活路を見出すのは興味深い展開です。ただ、企業努力だけでなく、年数の経過による技術の底上げも貢献しているといえます。
例えば、運転席と助手席のそれぞれから違う映像を見られるディスプレイは画素数を半分にせざるを得ないため、当初の技術では画質に限界がありました。しかし、それ以降のディスプレイ性能の伸長により、2方向の表示のために画素数を半分にしても十分な表示性能を確保しやすくなりました。遠赤外線カメラも、車載用が出始めた当初は高価でサイズが大きかったとされていますが、現在はスマートフォンに外付けできるサイズが現実的な価格で販売されています。
「車内で安全にエンターテインメント機能を楽しんでもらいたい」「夜間に歩行者や車両を見つけやすくして安全運転につなげたい」といったコンセプト自体は20年前も現在も変わりません。車載用としては採用が早すぎた技術が、民生用など他の用途の中で時間の経過とともにこなれて、当初の車載用のコンセプトに改めて貢献できるというケースは他にもあり得ます。“敗者復活戦”に値する技術を探して棚卸しすることが、新たなイノベーションのきっかけになるかもしれません。
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