注目を集めるリチウムイオン電池をはじめ「電池のあれこれ」について解説する本連載。今回は、リチウムイオン電池の4つの特性(高エネルギー密度、低抵抗、機械的強度、化学的安定性)のうち「高エネルギー密度」と「低抵抗」について、電極の構造に注目しながら詳しく解説します。
前回の連載第27回では、リチウムイオン電池の電極に求められる4つの特性(高エネルギー密度、低抵抗、機械的強度、化学的安定性)について解説しました。
リチウムイオン電池は、いまや私たちの日常生活に欠かせない存在となっていますが、その性能を向上させるためには、これら電極に求められる4つの特性に着目し、さまざまな課題を克服する必要があります。
特に、電池における「容量」と「入出力特性」は、「高エネルギー密度」と「低抵抗」という2つの電極特性と密接に関連しており、いわばトレードオフの関係にあります。
今回は、この「高エネルギー密度」と「低抵抗」について、まずは電極の構造に注目しながら、詳しく解説していきたいと思います。
前回からの繰り返しとなりますが「高エネルギー密度」と「低抵抗」という2つの電極特性の関係は、電池そのものの性能を大きく左右する重要な要素です。
電極レベルでの高エネルギー密度化が進むほど電池としても高エネルギーで高容量な電池に、電極レベルでの低抵抗化が進むほど電池としてもハイパワーで高入出力特性な電池になります。しかし、電池における「容量」と「入出力特性」はトレードオフになりがちな要素であり、目的の電池性能を得るためには、電極レベルから適切に特性の制御をしていく必要があります。
そこで大切になってくる視点が、何を「減らして」何を「増やす」のか、といったものであり、この「減らすもの」と「増やすもの」のバランスをとることが、電極設計においては極めて重要です。
一般的に、電池の「容量」と「入出力特性」におけるトレードオフの関係性は「電極厚」で説明されることが多いかと思います。
電極レベルの特性で考えた場合、例えば電池の「容量」を高めるために容量を担う活物質の量を「増やそう」とすると、電極合材層の厚みも「増えて」抵抗が増大し、結果として電池の「入出力特性」は低下する傾向にあります。
しかし、この「容量」と「入出力特性」を左右する要素は電極合材層の「厚み」だけではありません。その他にも電極全体の構造が及ぼす影響というものも考慮しなければなりません。
電極構造が電池の性能に与える影響を理解しやすくするため、身近なものに例えて考えてみます。
例えば、皆さんのお家の台所にもきっとあるであろう「スポンジ」と「キッチンペーパー」で考えてみましょう。
キッチンペーパーを1枚敷き、その上にスポンジを載せ、そのスポンジに水を1滴ずつ垂らしていく様子を思い浮かべてみてください。スポンジに吸われた水は徐々に浸透していき、いずれ下に敷かれたキッチンペーパーを濡らすことでしょう(図1)。
非常に大雑把な例えですが、このときスポンジが「どれだけ水を吸うことができるか?」という指標を「保水力」、「どれだけ速くキッチンペーパーを濡らすか?」という指標を「浸透力」とすると、
と考えることができます。
この考え方にのっとると、確かに電極合材層の「厚み」が「容量」と「入出力特性」に与える影響というのが一般的に言われる通りの関係性であることがイメージしやすいかと思います。そして、それと同時に「容量」と「入出力特性」の関係が単に「電極厚」だけでは決まらないことも想像しやすいのではないでしょうか。
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