スラリーを用いて厚い電極を作る場合、スラリーは「粘弾性」、すなわち「粘り」や「とろみ」をもった塗料ではあるものの、液体としての性質を有する以上、塗布されたスラリー層が厚くなりすぎれば、その厚みを維持しきれずに「ダレ」てしまい、塗工精度が思うように上がらず、目的の電極設計を達成しにくくなる恐れがあります。
そういった従来のスラリーを用いた電極塗工における厚膜形成時の課題を解決する方法の一つとして開発が進められているのが、電極の「ドライ」製法です。
以前、電池製造における環境負荷を解説した際にも、溶剤の使用量を減らした「ドライ」な原料による製造法としてご紹介しましたが、液体成分を用いないことで従来製法よりも厚い電極合材層を形成させやすいというメリットもあります(図2)。
塗工後のプレス工程では、集電体上に形成された電極合材層をプレス機によって圧縮します。電極合材の厚みや多孔度、電極密度を目的の値に調整するためには、プレスの圧力や速度を適切に設定する必要があります。
適切なプレス処理を経た電極は合材層の厚みが低減し、体積エネルギー密度が向上するとともに構造安定性も高まりますが、プレス圧が過剰な場合、合材中の多孔度が減少し、入出力特性が低下するおそれもあります。
例えば、プレス処理が電極特性に与える影響を研究した事例の中では、プレス圧力と多孔度の関係性が報告されています※2)。
※2)Meyer, Chris, et al. "Characterization of the calendering process for compaction of electrodes for lithium-ion batteries", Journal of Materials Processing Technology, Volume 249, November 2017, Pages 172-178
リチウムイオン電池の電極設計は、エネルギー密度と抵抗との間のトレードオフをさまざまな要素で調整する精緻なプロセスであり、各々の要因が互いに影響し合うことを理解することが大切です。
今回は、電極に求められる特性である「高エネルギー密度」と「低抵抗」について、電極の構造と、それを左右する製造工程に注目して解説をしてきました。
しかし、電極設計に関わる要素は「構造」や「製造工程」だけではありません。スポンジでいえば、厚みや孔の空き具合といった「構造」については話をしてきましたが、スポンジ本体を構成している「素材」については説明しておりませんでした。
そこで次回は引き続き「高エネルギー密度」と「低抵抗」という2つの電極特性について、「活物質」「導電助剤」「バインダー」「集電体」といった、電極を構成する部材に注目しながら解説していきたいと思います。(次回に続く)
株式会社カーリット 生産本部 受託試験部 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
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