中国系企業を筆頭にLFP系材料であるリン酸鉄リチウムの採用事例が目立つようになってきています。リン酸鉄リチウムの採用については、高い安全性や低コストといったメリットが挙げられる一方、エネルギー密度の低さやリサイクル時の収益性に対する懸念などデメリットに関する面の話題を耳にすることもあるかもしれません。
約3年にわたるこれまでの連載の中では、電池材料から周辺技術まで幅広く扱い、2024年1月の本連載では、2024年現在の動向を整理しました。
おさらいになりますが、リチウムイオン電池における正極材料のトレンドは「コバルトフリー」と「使い分け」です。これは、コスト的な観点から希少金属であるコバルトを避ける流れが進むとともに、材料ベースで安価なオリビン鉄(LFP)系と、ニッケルやマンガンを主体にしたそれ以外の材料系に大きく二極化し、搭載製品の価格や性能に応じて選択する場面が出てくるという考え方です。
しかし、直近の実用化や市場投入の面で見ると、「使い分け」というよりも、中国系企業を筆頭に、LFP系材料であるリン酸鉄リチウムの採用事例が目立つようになってきています。リン酸鉄リチウムの採用については、高い安全性や低コストといったメリットが挙げられる一方、エネルギー密度の低さやリサイクル時の収益性に対する懸念などデメリットに関する面の話題を耳にすることもあるかもしれません。
今回はリン酸鉄リチウムの特徴について、これらのメリットやデメリットといった点も踏まえて整理し、解説してみたいと思います。
リン酸鉄リチウムの最大のメリットとして挙げられることが多いのは、その高い安全性かと思います。過充電や高温状況下という過酷な使用環境においても、他の正極材料と比べて破裂や発火のリスクが低いとされています。この高い安全性は、リン酸鉄リチウムの結晶構造に起因しています。
リン酸鉄リチウムはオリビン型に分類される結晶構造を有し、リチウムイオンは鉄、リン、酸素によって形成される複雑な構造体の中を結晶軸に沿って1次元的に移動します。
結晶中のリンと酸素の結び付きが非常に強いため、過充電や高温での分解、結晶構造崩壊による酸素放出が起こりにくい、つまり異常発熱や発火に対する安全性が高いことが特徴です。
酸素放出を起こすような分解温度が他の材料よりも高いため、危険な領域に到達しにくいことが、リン酸鉄リチウムの安全性に結びついています。一方で、あくまでも「危険な領域に到達しにくい」という点、つまり「燃えない」のではなく「燃えにくい」ということは運用上注意すべきかもしれません。実際に、リン酸鉄リチウム系材料を採用した製品においても、火災事故の発生事例が見受けられます。
例えば、2021年4月、北京の集美家具デパートメントにおける大紅門貯蔵エネルギー発電所では爆発を伴う火災事故が発生し、消火活動にあたった消防士2人が亡くなる事態となりました。
※関連リンク:北京儲能電站爆炸調査結果:8箇誘因,没有定論_電池
リン酸鉄リチウムの高い安全性は、昨今とても注目されるようになった要素ではありますが、決して材料レベルの安全性だけで最終的なシステム全体の安全性が担保されるわけではないということに留意し、今後も安全上のリスクを注視すべきかと思います。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.