今回から数回にわたり、リチウムイオン電池に用いられる代表的な材料にはどんなものがあり、どのようにして電池の特性を左右するのか、解説していきたいと思います。
前回のコラム(リチウムイオンが充放電に関与すれば、どんな材料でも「リチウムイオン電池」!?)では「リチウムイオン電池」とは、そもそもどんな電池なのかを解説しました。簡単におさらいすると、リチウムイオン電池とは充放電にリチウムイオンが関与する二次電池の総称であり、どんな材料を使っていても、どんな構造で、どんな電池特性であったとしても、全て「リチウムイオン電池」と呼ぶことができてしまいます。
今回から数回にわたり、リチウムイオン電池に用いられる代表的な材料にはどんなものがあり、どのようにして電池の特性を左右するのか、解説していきたいと思います。
電池の特性の中でも、容量や起電力といった重要なものの多くは「活物質」という材料に大きく左右されます。電池は電気化学的な酸化還元反応を利用して、化学エネルギーと電気エネルギーの変換をするデバイスです。このエネルギー変換のために行われる酸化還元反応を担う物質のことを「活物質」といいます。
今回はリチウムイオン電池の「正極」に用いられる活物質について解説します。
正極活物質の多くはリチウムイオンを含んだ金属酸化物です。代表的な材料は結晶構造の観点から、層状岩塩型、スピネル型、オリビン型の3つに分類することができます。
層状岩塩型の物質はその名前が示す通り、遷移金属イオンとリチウムイオンが交互に配列した層状の結晶構造をしています。リチウムイオン電池の開発初期にLiCoO2(コバルト酸リチウム)が正極活物質として機能すると判明して以来、今に至るまで用いられ続けている代表的な材料系です。
結晶中の金属酸化物層にはコバルト、ニッケル、マンガンが主に使われています。近年ではニッケルを主体にしたNCA(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2)や3種を混合したNCM(三元系、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)などが一般的であり、価格や種々の性能のバランスを見ながら含有金属比率の調整が行われています。
層状岩塩型の活物質は高容量な材料にしやすい半面、充電時に層間のリチウムイオンを引き抜きすぎると結晶構造が崩壊し、電池の劣化や異常発熱に至る可能性があります。電池が高エネルギーを貯蔵するデバイスである以上、容量と安全性はどうしてもトレードオフになりがちです。ニッケル含有率を高めることでエネルギー密度を向上させつつ、その一方でどのように安全性を担保するか、といった観点で開発が進められています。
層状岩塩型の物質の場合、リチウムイオンが結晶構造内を2次元的に移動するのに対して、スピネル型の物質の場合は格子状の結晶構造内を3次元的に移動します。スピネル型の活物質は層状岩塩型に比べるとエネルギー密度が劣る傾向にありますが、結晶構造が強固な3次元格子であるため、層状岩塩型よりも過充電に対する耐性があることも特徴です。
主要金属にマンガンを用いたLMO(LiMn2O4、マンガン酸リチウム)が代表的な材料として挙げられます。過充電の観点からは安全性が高い材料ではありますが、高温条件下ではマンガンが溶出し、劣化や性能低下を引き起こす要因となります。また、マンガンスピネル系材料にニッケルを添加したLNMO(LiNi0.5Mn1.5O4、ニッケルマンガン酸リチウム)は高電圧系の正極材料として注目されています。LNMOを用いた電池は従来のリチウムイオン電池よりも高い5V級の起電力の発現が可能となり、エネルギー密度向上への寄与が期待されています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.