EVはガソリン車より燃えにくい? リチウムイオン電池の発火リスクを考える今こそ知りたい電池のあれこれ(26)(1/3 ページ)

注目を集めるリチウムイオン電池をはじめ「電池のあれこれ」について解説する本連載。今回は、リチウムイオン電池の発火リスクと安全性に焦点を当てて考えたいと思います。

» 2024年10月15日 08時00分 公開

 2024年9月1日、世界動力電池大会において、CATL(寧徳時代)の会長である曽毓群氏が、新エネルギー自動車(NEV)業界における安全性の重要度を強調した上で、業界全体で電池の安全基準を引き上げる必要があると訴えたことが話題になりました。曽氏はCCTV(中国中央電視台)の報道を引用し「2023年の中国国内における新エネルギー車の火災発生率が1万分の0.96である一方、中国国内の新エネルギー車の保有台数は2500万台を超え、その中に搭載された電池セルの数は数十億個に達しており、電池の安全性が確保されなければ、その影響は壊滅的なものになる」と述べました。

 曽氏はさらに、市場に出回っている多くの電池は安全性に課題があると述べ、多くの製品が100万分の1(ppmレベル)の不良率をうたっているにもかかわらず、実際にはその不良率が1万分の1、あるいは1000分の1にすぎない場合があると指摘しました。

 また、同じく中国の国家応急管理部消防救援局の調査によると、2022年第1四半期に国内で報告された新エネルギー車火災事故は計640件と前年同期比で32%増加しており、中国国内では少なくとも1日平均7件以上の新エネルギー車の火災が発生していることが分かっています。

 本コラムでも、たびたび取り上げているテーマではありますが、リチウムイオン電池の異常発熱およびそれに起因する発火事故は、ひとたび発生すれば非常に大きな問題となります。

 そういった危険な事象はどうしても目につきやすく、過度に危険な印象を抱きがちです。

 今回は、用途の広がりを見せるとともに、急速に普及が進んでいるリチウムイオン電池の発火リスクと安全性について、今一度整理してみたいと思います。

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電池の大型化やエネルギー密度の増大によりハザードレベルも上昇

 以前にもご紹介した通り、リチウムイオン電池の本質的なリスクとして「熱暴走」の存在が挙げられます。

 熱暴走に伴って発生する危険事象は「ハザードレベル」という考え方に沿って分類される場合があります。表1で示したように、正常な状態を「レベル0」、爆発を起こす状態を「レベル7」とし、危険事象を8段階に分類して評価するという考え方です。

表1 表1 熱暴走に伴って発生する危険事象のハザードレベル[クリックで拡大] 出所:“Recommended Practices for Abuse Testing Rechargeable Energy Storage Systems (RESSs)”, SANDIA REPORT, SAND2017-6925 を基に作成

 近年、リチウムイオン電池の用途が拡大するに伴い、電池の大型化やエネルギー密度の増大が進んでいます。この傾向は電池のセルレベルだけでなく、組電池であるモジュールやパックにおいても同様です。セル1つ当たりのエネルギー密度が増大するとともに、組電池レベルでも、限られた空間内にセルをどのように効率的に集約させるかが開発のポイントとなっています。

【訂正】当初『電池の大型化、すなわち「エネルギー密度の増大」が進んでいます』としていましたが、電池の大型化=エネルギー密度の増大ではないため表記をあらためました。本文は訂正済みです。

 このようなエネルギー密度の増大は電池技術の発展において必要不可欠な要素ですが、それと同時にハザードレベルの上昇リスクも避けて通れません。最大エネルギー量の増大そのものがハザードレベルの上昇につながる要素であるのはもちろんですが、限られた空間内にセルを密集させることやリチウムイオン電池自体の普及によって、一つのセルで生じた発火を伴う異常が隣接する他のセルへと波及してしまう「類焼」や「延焼」のリスクも増大します。

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