リチウムイオン電池の発火の引き金となるのは「短絡」です。では、短絡が発生した後に発火へと至る電池の中では具体的に何が起こっているのでしょうか。
近年、リチウムイオン電池は日常のさまざまな用途で用いられるようになっており、より私たちにとって身近で欠かせない存在となっています。
しかし、電池は便利なものである一方、取扱いを誤ると重大な事故を引き起こしかねない危険性を有していることも忘れてはいけません。リチウムイオン電池が普及するに伴い、発火事例が多々見受けられるようになってきました。
猛暑で活躍した手持ち式小型扇風機、いわゆるハンディーファンが使用中に発火した事例などは、この夏も度々ニュースで取り上げられていたかと思います。また、炎天下の車内に放置していたスマートフォン端末やモバイルバッテリーからの出火や、一般ごみに混入したリチウムイオン電池がごみ収集の過程で発火するといった話もよく聞かれるものです。
国外にも目を向けると、普及が進みつつある電気自動車(EV)の発火事例がしばしば報告されています。自動車が炎上する様子はなかなか刺激的な映像ということもあり、「ガソリン車とEVのどちらが安全か?」という議論を巻き起こしながらSNSで拡散されているのを目にしたことがあるという方も少なくないのではないでしょうか。
なぜリチウムイオン電池は燃えるのか? 以前にコラムでもご紹介した通り、リチウムイオン電池の発火にはさまざまな要因が考えられるものではありますが、多くは電池の「プラス」と「マイナス」が直接つながる「短絡(ショート)」が発火の引き金となる異常発熱の原因です。
発火の引き金となるのは「短絡」です。では、短絡が発生した後に発火へと至る電池の中では具体的に何が起こっているのでしょうか。
リチウムイオン電池において、短絡などの引き金となる現象をきっかけにして生じた発熱がさらなる発熱を招き、温度の制御ができなくなってやがて発火や爆発にまで至る状態のことを一般的に「熱暴走」と呼びます。
PCや携帯電話機において、激しい負荷がかかる動作をしたことで制御不能な熱を持つ現象も「熱暴走」(オーバーヒート)と呼ばれることがありますが、今回ご紹介するような電池発火につながる「熱暴走」とは少々意味合いや状態が異なることにご注意ください。
電池における熱暴走とは電池内部のさまざまな物質の熱分解反応が急激に起こることを指し、この状態に陥った電池は内部の連鎖的な反応によって時間経過とともに温度が上がり続けます。リチウムイオン電池の熱暴走挙動を簡易的に整理したイメージ図は以下の通りです。
以前にもご紹介した通り、リチウムイオン電池というのは非常に懐の深い名称です。電池を構成する材料の種類や電池の構造、どれだけ充電されているのか、どれだけ劣化しているのかといった電池の状態などによっても、熱暴走における詳細な挙動は異なってきますので、今回はあくまでも一例としての概要を示します。
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