今回はいま一度初心に立ち返り、主に電池の評価を例にして、「実験」「試験」「評価」、それぞれの意味や目的、重要性について解説していきたいと思います。
私が現在所属している日本カーリットの受託試験部は、その名の通り、お客さまからお預かりした試験体を「評価」する「受託試験」に取り組んでいます。
科学の世界においても、産業の世界においても「実験」「試験」、そして「評価」というプロセスが重要な役割を果たしていることは皆さまもよく知るところかと思いますが、今回はいま一度初心に立ち返り、主に電池の評価を例にして、「実験」「試験」「評価」、それぞれの意味や目的、重要性について解説していきたいと思います。
よく目にする言葉ではありますが「実験」と「試験」という言葉は、しばしば混同されがちです。かく言う私自身、普段はあまり使い分けを強く意識せずに、何げなく用いてしまうこともありますが、厳密には異なる概念を指す言葉でもあります。
本来、「実験」とは、ある仮説や理論を検証するために設計された操作や観察のことを指します。科学的な「実験」というのは、新しいアイデアや理論が、実際に現実の世界でどのように機能するかを確認するためのプロセスです。
例えば、新しい電池の材料がどのように働くかを確認するために、その材料を用いて試作した電池の性能を評価する試みは「実験」に当たるかと思います。また、以前に紹介した量子電池の研究事例なども「実験」的な取り組みの1つといえるでしょう。
一方、「試験」とは、一般的には製品やシステムが指定された要件を満たすかどうかを確認するプロセスのことを指します。電池の場合、以前にもこのコラムの中で、安全性を評価するために行われる試験の分類や目的を解説したことがあります。
リチウムイオン電池の特性は「性能」と「安全性」の2つに大きく分けることができます。ここでいう「性能」とは、電池の基本動作となる充放電に直結する特性や長期耐久性を示す寿命特性などを、「安全性」とは、電池の発火、破裂といった危険事象の発生を左右するものであり、文字通り、電池を安全に使用することができるかを表す特性のことを指します。
これら2つの特性のいずれに対しても、いわゆるJIS規格などの規格試験と、そういった規格の枠組みから外れた領域の評価をする規格外試験があるため、性能と安全性、規格内と規格外の組合せから成る4パターンの試験分類が大枠として考えられることになります。
そして、「評価」とは、「実験」や「試験」の結果を分析し、それが目標や基準を満たしているかを判断するプロセスです。
新しい電池の材料がどのように働くかを確認するために行われた実験であれば、その材料が当初の予想通りの性能を発揮できたのか? できなかったのか? 実験結果を「評価」することで、その解釈の内容を次の「実験」に反映させ、新たな開発を進めていくことになります。
また、電池性能を評価するために行われた規格試験であれば、一連の試験手順が定められた規格の通りに実施されていること、そして、得られた結果自体も規格に定められた判断基準を満たしているかを判断することが「評価」に当たります。
実験、試験、そして評価は、科学と技術の進歩を支える重要なプロセスです。これらの理解を深めることで、科学の進歩と技術の革新により具体的にどのような影響があるのか、またそれが私たちの生活にどのように影響を与えるのかを理解することができます。
言い方を変えると、そのプロセスが具体的にどのような営みを指し、その結果によって何が担保されているかを正しく把握できていない場合、評価結果が示す内容を誤認してしまうこともあるかもしれません。
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