今やリチウムイオン電池は私たちにとって身近で欠かせない存在となっています。その一方で、取扱いを誤ると重大な事故を引き起こしかねない危険性を有していることも事実です。今回はリチウムイオン電池の「安全性」について、これまでの連載とは少し視点を変えて考えていきたいと思います。
これまでの連載の中では、何度かリチウムイオン電池の異常発熱や熱暴走に関する話題を取り上げてきました。こういった事象はあまりむやみに騒ぐのもよくないのですが、電池の発火事例というのはどうしても注目されがちです。ここ最近の出来事としては、米国フロリダでのハリケーンによって水没した電気自動車(EV)が発火、炎上する問題(※)が印象的かと思います。
(※)Hurricane Ian flood damage to EVs creating ticking time bombs in Florida:https://abc7.com/hurricane-ian-ev-car-fires-electric-cars-damaged-florida-flood-damage/12356326/
今やリチウムイオン電池は私たちにとって身近で欠かせない存在となっています。その一方で、取扱いを誤ると重大な事故を引き起こしかねない危険性を有していることも事実です。今回はリチウムイオン電池の「安全性」について、これまでの連載とは少し視点を変えて考えていきたいと思います。
リチウムイオン電池の安全性について考えていく前に、そもそも安全とはどういうことなのか、改めて振り返ってみたいと思います。
私たちは日常的かつ当たり前のように「安全」という言葉を用いますが、ひとくちに安全といっても、業界や扱う製品、システムによっても、置かれている立場がメーカー側なのかユーザー側なのかによっても、安全に対する考え方や捉え方が変わってくるように感じます。
今回考えていく、電池のような工業製品における安全について、JIS規格の1つ「JIS Z 8051:2015 安全側面―規格への導入指針」の中では次のように記載されています。
許容不可能なリスクがないこと。
現在の社会の価値観に基づいて、与えられた状況下で、受け入れられるリスクのレベル。
一般社会では、しばしば“安全”という用語は、全てのハザードから守られている状態と理解されている。しかし、正しくは、安全とは危害を引き起こすおそれがあると思われるハザードから守られている状態をいう(3.14参照)。製品又はシステムには、あるレベルのリスクが内在している。
“安全”および“安全な”という用語は、特に有益なその他の情報を伝えない場合には、形容詞としての使用は避けることが望ましい。さらに、“安全”および“安全な”の用語はリスクがないことを保証していると誤解されやすいので、可能な限り目的を示す用語に置き換えることが望ましい(例 参照)。
世間一般に安全というと、あらゆる危険性から守られているかのような印象を受けがちですが、どんな製品やシステムにもある程度のレベルのリスクは必ず内在しています。必ずしも「全ての危険性が取り除かれた状態=安全」というわけではありません。
安全とは、そういったリスクとの兼ね合いの中で危害を引き起こすおそれをどれだけ防げているかという観点で多角的に考えるべきものです。そのため昨今のSNSなどでありがちな、切り出した1つの側面から何かと何かを単純比較して「どちらが安全か?」と論ずるような風潮には違和感を覚えます。
次に、リチウムイオン電池における安全性について、「JIS C 8715-2:2019 産業用リチウム二次電池の単電池および電池システム 第2部:安全性要求事項」の記載内容を見ていきます。
安全性(safety)
受入れ不可能なリスクがないこと。
通常使用(intended use)
仕様書、取扱説明書又は供給元から提供される情報に基づく条件下での製品の使用。
予見可能な誤使用(reasonably foreseeable misuse)
供給元が意図しない目的又は条件下で、供給元で予想し得る製品の誤った使用。
単電池又は電池システムの安全性は、次の両方の使用条件に適用する。
単電池および電池システムは、a)およびb)において安全が保たれるよう設計し、製造しなければならない。通常使用においては、単電池および電池システムは安全であるだけでなく、継続して使用できなければならない。
予見可能な誤使用の後に機能が失われた場合でも、単電池又は電池システムは、1)〜5)の潜在的な危険源となってはならない。
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