ニッケル水素は駆動用電池でまだまだ現役、長寿命化の課題「メモリ効果」とはいまさら聞けない 電装部品入門(26)(1/2 ページ)

クルマのバッテリーといえば、かつては電圧12Vの補機バッテリーを指していました。しかし、ハイブリッドカーの登場と普及により、重い車体をモーターで走らせるために繰り返しの充放電が可能な高電圧の二次電池(駆動用バッテリー)の重要性が一気に高まりました。前編では、ニッケル水素バッテリーを中心に、その特徴や技術的な課題を紹介します。

» 2019年05月20日 06時00分 公開

編集部注:この連載は、2016年5月の前回の記事「運転に慣れている人にこそ、意外と役立つ運転支援システム」から3年ぶりの再開です。電動化技術が注目を集める今こそ、あらためて読んでいただけますと幸いです。

 一昔前まではハイブリッドカーを新車で購入して街中を運転していると、

 「あ、うわさの最新のエコカーだ!」

 という周囲の目と言いますか、ほんの少し鼻が高い感覚であった物ですが、最近の自動車販売状況を見ていますと、ガソリンエンジンとハイブリッドシステム搭載モデルを併売している車種における販売割合は、ハイブリッドカーの方がずいぶんと上になってきたなぁと感じます。

 申し上げるまでもなく、本格的にモーターを動力源として走行するハイブリッドカーに関してはモーターと高電圧バッテリーを搭載する必要がありますので、シンプルなガソリンエンジン車よりも高額になります。軽自動車の一部で採用されているような、一時的に補助動力としてモーターを使うライトなハイブリッドカーは除きます。

 そもそもハイブリッド化による車両価格上昇分を燃費で稼ぐためにはどれくらい走行しなければいけないのか? といった論争が当時は多々行われていましたが、今は車両価格に合わせた内装質感の向上や静粛性などを売りにすることで購入者側も納得しており、もはや燃費だけで単純比較することはなくなったようにも感じます。

ニッケル水素バッテリー

 自動車に搭載されているバッテリーといえば補機類向けの12Vバッテリーというイメージが世間的にはまだまだ根付いていると思いますが、ハイブリッドカーの普及が大幅に進んだことを考えますとその常識も徐々に変わってくるのかな? と感じています。12Vバッテリーに関しては過去の連載記事で詳しくご説明していますのでここでは割愛させていただきます。まだお読みになっていない方は以下の記事をご参照ください。

 歴史を振り返ってみますと、ハイブリッドカーというものが大きく世の中に浸透したきっかけとなったのはトヨタ自動車の「プリウス」の登場ですね。初代プリウスが販売開始されたのは1997年ということですので、ハイブリッドカーが量販車として認識されてから、本稿執筆時点で22年もの歳月が経過したことになります。

 ハイブリッドカーはモーターを主な動力源として走行しますので、1000kgを超える車重をスムーズに走行させられるだけの大電力を放電できることはもちろん、付随しているエンジンの動力や走行エネルギーを回生して繰り返し充電できる性能を兼ね備えた二次バッテリー(充電可能なバッテリー)を搭載する必要があります。

 そこで初代プリウスは自動車としての走行性能と耐久性を満足させるため、設計時に計算された適正電圧は288V、バッテリーの種類としては充電池として有名な「eneloop」と同じニッケル水素バッテリー(Ni-MH)が採用されました。

巨大なeneloop?

 ここでお話しするべきなのは、「288Vということは、とても大きなeneloopを搭載したのか?」という素直な疑問に対しての回答ですね。

 答えから言いますと「そうではありません」となります。身近なものでイメージしていただくとすると、単4乾電池と単1乾電池とは大きさが明らかに異なりますが、電圧は同じ1.5Vですよね。ただし大きい単1の方が、容量その他が大きくなります。

 ここには化学反応を用いている電池の非常に基本的な考え方が潜んでいます。「鉛と硫酸」を化学反応させて電気を生み出している鉛バッテリーを例にすると、この化学反応で生じる電圧は2Vです。どれだけ大量の鉛と硫酸を用意しても必ず2Vです。普通、自動車に搭載されている補機用の鉛バッテリーは、自動車という特性を踏まえて12Vを一般的な基準電圧と定めていますので、2Vを6つ直列接続させて12Vとして出力しているということになります。この2Vを生み出す1つの単位をセルと言います。

 さて話を電圧288Vのニッケル水素バッテリーに戻します。一般的な乾電池と同じ電圧のeneloopとして流通しているわけですから、ニッケル水素バッテリーの化学反応も1.5V程度であることが分かります。実際は1.2〜1.5Vという感じに少し電圧には幅があるようなのですが、結果として288Vを実現するため、初代プリウスは240セルのニッケル水素バッテリーを直列接続するという手法が用いられています。

ニッケル水素バッテリーのセル(クリックして拡大)

 とはいえ充放電に求められる電気容量がとても大きい自動車に用いるわけですから、単3乾電池のようなサイズを240本というわけにはいきません。実際には単1電池サイズのものを240個というイメージですね。それでも相当な容積が必要となりますので、車室内の空間を大きくロスしてしまうことになります。

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