「自由貿易には試練のとき」、コマツ新社長はレジリエンスを重視製造マネジメントニュース

コマツは取締役会において、代表取締役の異動を決定した。

» 2025年02月03日 07時30分 公開
[齊藤由希MONOist]
コマツの今吉啄也氏[クリックで拡大] 出所:コマツ

 コマツは2025年1月31日、同日開催の取締役会において、代表取締役の異動を決定したと発表した。

 2025年4月1日付で取締役兼専務執行役員の今吉啄也氏が代表取締役社長兼CEOに昇格する。現在、代表取締役社長兼CEOを務める小川啓之氏は取締役会長に、取締役会長の大橋徹二氏は取締役に就く(大橋氏は2025年6月開催予定の定時株主総会終了を持って任期満了により取締役を退任し、特別顧問に就任する見通し)。代表取締役兼専務執行役員CFOの堀越健氏は現職を継続する。

 小川氏が社長に就任して6年が経過し、現行の中期経営計画が2024年度末までであることから節目を迎えたと判断し、新社長にバトンタッチする。2024年12月の人事諮問委員会で今吉氏に内定した。新たな中期経営計画は2025年4月末に発表予定だ。

 小川氏は新社長の今吉氏について「冷静で、物事を全体最適で見ることができる。前の中期経営計画も一緒に策定したので、私がやってきたこともよく理解している。経営の一貫性という意味では大きなポイントになった。中国と米国の両方を経験していることも評価した。360度評価でも部下からの信頼は厚い。総合的に見て適任だと判断した」と説明した。

 小川氏は自身の任期中について「コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻、中近東の紛争などがあり、安全とコンプライアンスをベースに中期経営計画を推進してきた。リスクや外部環境の影響を受けにくい体質を目指して強化してきたことが成果として現れてきた」と振り返る。

 また、苦労した仕事については、「エッセンシャルワークであるユーザーの現場へのサポートをコロナ禍でもグローバルで維持することは大変だった。ロシアのウクライナ侵攻で2000億円弱あったロシアの売り上げが全くなくなってしまい、これに代わる売り上げを確保する新しい取り組みにも苦労した」(小川氏)と述べた。

米国や中国に駐在

 新社長の今吉氏は1963年11月生まれ。1987年にコマツに入社し、粟津工場(石川県小松市)の総務部経理課で働き始めた。経営管理や財務、経理を主に担当した。1998〜2004年は米国のコマツアメリカに、2010〜2013年は中国の小松(中国)投資に赴任しており、直近も中国総代表と小松(中国)投資の董事長を務めるなど海外でのキャリアが長い。「中国では、需要が急激に落ちる中での構造改革に取り組んだ」(今吉氏)

 2024年4月に帰国した後は専務執行役員に就任し、経営企画管掌で中期経営計画の策定に携わった。M&AやIRも担当しており、投資家との対話も行ってきた。「中期経営計画の策定にも関わっており、今後も一貫性を持ってコマツをリードできる」(小川氏)

 今吉氏が米国に駐在した1998年は、現地企業との合弁会社を子会社化して5〜6年が経過したころだった。

 「まだコマツと統合を進めている最中だった。コマツのグローバル化を進める段階を体験できたのは非常にいい経験だった。コマツの価値観を押し付けるわけではなく、彼らのやり方を学びながらコマツも成長してきた。また、当時は米国の景気が悪く、コマツも選択と集中で一時期は赤字に陥った。コマツの格付けが投資不適格の直前までいった中で資金調達も担当した。非常に厳しい時代だったが多くの経験ができた」と今吉氏は語った。

 コマツの売り上げは9割が海外向けだ。グローバルなオペレーションの中で海外の社員も巻き込んでいくことは今後も重要だとしている。コマツは100周年を迎えた2021年に自社の存在意義や価値観を整理した「コマツウェイ」を策定した。全社員に持ってほしい共通認識を言語化したという。2025年1月にコマツウェイは改定されており、それを今後も共有しながらコマツの発展を目指す。

 売り上げの1割が日本だが、ホームマーケットとして引き続き重視する。「スマートコンストラクションのような最新技術も日本で先駆けて導入してきた。労働力不足なども問題になっており、ICT型の建設機械を普及させたい。業績を伸ばすだけでなく社会課題の解決にもつなげていきたい。スマートコンストラクションは10年目になり、日本だけでなく海外展開も加速させる」(今吉氏)

環境技術や自動化に注力

 コマツを取り巻く環境について今吉氏は「VUCAの世界がますます広がっており、自由貿易を前提にグローバル展開してきた企業にとって大きな試練の時代を迎えている。建設機械の新車需要はさまざまな経済の影響を受け、変動が大きい。変動への耐性を磨いてきたが、今後もますますの変動に備えてレジリエンスを強化したい」と述べた。

 また、環境技術の大きな変化も課題となる。「電動化を含め、ディーゼルエンジンから代替動力源への移行が進む。また、AI(人工知能)を含めた自動化や遠隔化などの技術もさらに速いスピードで進展する。コマツとしても技術開発や商品の導入に力を入れるべきだ。コマツは過去にも他社に先駆けて自動ダンプの運行システムやスマートコンストラクションなどに取り組んできたので、今後もそういった方向に注力していく」と今吉氏は語った。

 「自動車と建設機械は動いている場所が違う。電動化するにはどこで充電するかが問題になる。電動化しても充電できなければ動かせない。水素エンジンも含めてさまざまな技術がまだこれから出てくるとみている。既に欧州向けにいくつかの電動モデルを出しているが、市場ごとに要求が異なり、充電や技術の動向もまだ不透明だ。全方位でやっていかなければならない」(今吉氏)

米国が仕掛ける貿易戦争、中国企業の成長

 コマツは、需要の変動に備えて同じ製品であっても世界に何カ所かの生産拠点を持ち、状況に合わせて調整してきた。今後は部品についても同様にマルチソース化を進める。

 「貿易戦争が始まってくると、その都度さまざまな対応が必要で、今の体制で調整しきれない場合もあるかもしれない。政策は具体的によく見ていく。ただ、コマツとしてはカナダ/中国/メキシコから米国への輸入は限られているので大きな影響はないが、カナダには米国から輸入しているのでカナダ側が関税をかけると違った状況になり、影響も出てくる。基本的には、需要のあるところでモノを作ってきた。ある程度の量に達すれば工場を作り、原価やサービスも含めて優位性を持てるようにやってきた。貿易戦争に関係なく、優位性があれば現地で組み立てる。部品調達も含めてベストな方向を模索し、総合的に判断したい」(今吉氏)

 中国メーカーについては、「技術力の進歩は目覚ましい」と今吉氏は評価する。「駐在した10年前は外資メーカーのシェアが80%だったが、今は逆に外資メーカーのシェアが15%くらいになっている。それだけ中国メーカーの品質や販売力が優れているということだ。政府の産業振興策に加えて、中国国内のマーケットの大きさもある。切磋琢磨も激しく、1回目の駐在では中国メーカーを50社まで数えてやめたが今残っている有力企業は5〜6社。淘汰されながら成長している。ただ、大型やハードデューティーの建設機械はまだコマツを含めた外資メーカーに優位性がある。そこでどうやっていこうかというところだ」(今吉氏)

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