注目を集めるリチウムイオン電池をはじめ「電池のあれこれ」について解説する本連載。今回は、リチウムイオン電池の「高エネルギー密度」と「低抵抗」という特性に影響を与える4つの部材「活物質」「導電助剤」「バインダー」「集電体」について解説します。
前回は、リチウムイオン電池の電極に求められる「高エネルギー密度」と「低抵抗」という2つの電極特性について、電極の構造と、それを左右する製造工程に注目して解説しました。
しかし、電極設計に関わる要素は「構造」や「製造工程」だけではありません。
そこで今回は引き続き「高エネルギー密度」と「低抵抗」という2つの電極特性について、「活物質」「導電助剤」「バインダー」「集電体」といった、電極を構成する部材に注目しながら解説していきたいと思います。
前回は、電極構造が電池の性能に与える影響を理解しやすくするため、スポンジにたとえて解説をしました(図1)。
おさらいになりますが、キッチンペーパーを1枚敷き、その上にスポンジを載せ、そのスポンジに水を1滴ずつ垂らしていくような状況を仮定した場合、スポンジが「どれだけ水を吸うことができるか?」という指標を「保水力」、「どれだけ速くキッチンペーパーを濡らすか?」という指標を「浸透力」とすると、
と見立てることができます。
前回の解説では、スポンジの厚みや穴の空き具合といった「構造」が、これらの特性に与える影響について話をしてきましたが、スポンジ本体を構成している「素材」については説明していませんでした。
例えば、厚みや多孔度が全く同じ2枚のスポンジがあるとします。
構造的な影響という観点だけでいえば、この2つのスポンジには差がないことになりますが、実際はスポンジの「素材」も影響するものであり、水との親和性が高い材質であるかどうかによって「保水力」と「浸透力」に差が出てくることは想像するに難くありません。
リチウムイオン電池の電極においても同様に、構成材料の性質が電極特性に与える影響を考慮する必要があります(図2)。
正極、負極ともに、集電体となる金属箔、一般的には正極はアルミニウム箔、負極は銅箔の上に電極合材が形成されています。
電極合材を形成する材料は、電池容量を担う「活物質」、電極抵抗を低減させるために添加する「導電助剤」、各材料の結着を担う高分子材料である「バインダー」の3つに大別されます。これらの材料の組合せや混合比によって決まる電極の組成は、電池の性能を大きく左右する要素の一つです。
前回からの繰り返しとなりますが、この電極組成や使用する材料の選定において大切になってくる視点が、何を「減らして」何を「増やす」のか、といったものであり、この「減らすもの」と「増やすもの」のバランスをとることが、電極設計においては極めて重要です。
「活物質」「導電助剤」「バインダー」「集電体」、それぞれの観点から、「高エネルギー密度」と「低抵抗」という2つの電極特性に与える影響を順に整理してみます。
活物質は電池容量を担う材料です。高エネルギー密度を実現するためには、単位重量および体積当たりのリチウムイオン吸蔵量が多い活物質を選択することが重要です。そして電極中の活物質量を増やすことで、電極の容量が向上し、エネルギー密度が高くなります。
その一方で、活物質の粒子サイズや電極内分布は抵抗に影響を与えるため、粒子サイズを最適化することも特性改善には効果的です。
例えば、活物質を微粒子化することで電極の表面積が増加し、電解液との接触面積が大きくなり、電極上の反応が促進されます。また、活物質の粒径が小さいほど、活物質粒子内のイオンや電子の移動距離が短くなります。これらの作用により、電極抵抗の削減や入出力特性の向上を図ることができます。
活物質の微粒子化が効果的に寄与した代表的な事例としては「リン酸鉄リチウム」がよく知られるところです。リン酸鉄リチウムは、電子伝導性やリチウムイオン輸送特性が他の活物質よりも低いとされていましたが、微粒子化を始めとする種々の手法によって特性が改善され、今日に至っています。
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