リチウムイオン電池の電極を構成する4つの部材が電池性能に与える影響とは今こそ知りたい電池のあれこれ(29)(3/3 ページ)

» 2025年02月04日 07時00分 公開
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リチウムイオン電池の構造的な新規アプローチ

 リチウムイオン電池の電極に求められる「高エネルギー密度」と「低抵抗」という2つの特性について、目的とする電極特性を達成するためには、ここまでご紹介してきたような電極構造や各部材の、何を「減らして」何を「増やす」のか、といった観点で適切にバランスを調整した電極設計が必要となります。しかし、これらの特性はトレードオフの関係にあり、その両立は大きな課題となっています。

 そこで、リチウムイオン電池の構造的な新規アプローチとして、「バイポーラ電池」や「ファイバー電池」といった手法が注目されています。これらの技術は、高エネルギー密度と低抵抗という2つの重要な電極特性の向上を目指しています。

 バイポーラ電池は、以前にもご紹介したように、1枚の集電体の両面に正極と負極を配置した独特の構造を持っています。

 部品点数の削減およびコンパクト化によるエネルギー密度の向上を図るとともに、内部で複数セルが直列に積み重なる構造によって抵抗を低減し、入出力特性を向上させることも可能となっています。

 この独特な構造を実現するためには、電極部材、特に集電体に対して特別な機能が要求されます。

 まず、1枚の集電体の両面に正極と負極を配置するという構造の都合上、樹脂箔やクラッド材など、正負共用できる集電体を選択する必要があります。

 また、電池内部で電解液が複数のセル間にまたがって各電極同士がイオン的短絡(液絡)状態となることを防ぐため、電池内部でセル間に隔壁を構築し、隣接するセルへ電解液が漏れ出さないような封止をする必要があります。

 この液漏れ対策として、集電体の基材の表面に微細な凹凸を設けた上でシール樹脂を溶着する手法が報告されています。※2)

※2)TOYOTA Technical Review, Vol.69, No.2, pp.85〜87「バイポーラ型ニッケル水素電池」

 ファイバー電池は、同心円状の電極構造を持つ新しいアプローチの一つです。

 同心円状構造によって電極の対向面積を増大することで、従来構造の電極よりも高いエネルギー密度を実現しています。また、その形状は電極内のイオン伝導経路を短縮し、入出力特性の向上にも寄与しています。

 「バイポーラ電池」や「ファイバー電池」は、両技術ともに従来のリチウムイオン電池が直面していた高エネルギー密度と低抵抗のトレードオフ関係を解消することを目指しています。これらの革新的なアプローチにより、エネルギー密度と入出力特性の両立が可能となり、より高性能な電池の開発が期待されます。



 前々回から2回にわたり、リチウムイオン電池の電極に求められる「高エネルギー密度」と「低抵抗」という2つの電極特性について解説してきました。次回は、残る2つの特性、「機械的強度」と「化学的安定性」について詳しく解説し、それらがどのように電池性能に影響を与えるのかを考えていきたいと思います。(次回に続く)

著者プロフィール

川邉 裕(かわべ ゆう)

株式会社カーリット 生産本部 受託試験部 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。

▼株式会社カーリット
https://www.carlithd.co.jp/

▼電池試験所の特徴
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/

▼安全性評価試験(電池)
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/safety.html

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