イーソルのユーザーイベント「eSOL Technology Forum 2025」の基調講演に同社 代表取締役社長CEO兼CTOの権藤正樹氏が登壇。本稿では、同講演で権藤氏が語った、日本のモノづくりを担う製造業と関わりの深い組み込みソフトウェアが果たすべき役割や、SDVへの取り組みが進む自動車市場における日本の勝ち筋などについて紹介する。
イーソルは2025年6月27日、東京都内でユーザーイベント「eSOL Technology Forum 2025」を開催した。基調講演に登壇したのは、同年3月に同社の代表取締役社長CEO兼CTOに就任した権藤正樹氏である。
権藤氏は「日本のソフトウェアの現在地と向かうべき未来 - A new SDV for Japan, for every vehicle -」と題した講演の冒頭で「日本のモノづくりのソフトウェアが日本の未来そのものになるのではないか」と訴えた。本稿では、同講演で権藤氏が語った、日本のモノづくりを担う製造業と関わりの深い組み込みソフトウェアが果たすべき役割や、SDV(ソフトウェアデファインドビークル)への取り組みが進む自動車市場における日本の勝ち筋などについて紹介する。
権藤氏が日本の現状を示すために取り上げたのが、経済産業省が2025年4月に公開した「デジタル経済レポート」である。同レポートでは、無線ブロードバンドや世界へのロボット普及度では世界2位である一方で、デジタル/技術スキルやデータの活用などでほぼ最下位であり、デジタル関連収支も全サービスカテゴリーで大幅な赤字が悪化中であることを指摘している。
この「デジタル赤字」は、アプリケーションやミドルウェアといったソフトウェアプロダクトの約70%が海外製であることに起因している。現状は、SI(システムインテグレーション)については約70%を国内で担っているものの、労働集約型市場であるため、今後はAI(人工知能)によって代替され縮退していく可能性が高い。このため、2023年まで年平均9.0%増で収まっていたデジタル赤字は、今後は同10%超に加速して2035年には18兆円に拡大すると予想されている。高利益率、高成長率であるソフトウェアプロダクトはさらに海外企業に侵食されるという見立てだ。
さらに権藤氏が問題視するのが「隠れデジタル赤字」となっているモノづくりのソフトウェアである。同氏は「ここまでの話でデジタル経済レポートが言及しているソフトウェアプロダクトは、エンタープライズ系やサーバといったITシステム向けに限られる。この数字に、組み込みソフトウェアをはじめとするモノづくりのソフトウェアが含まれていない」と語る。例えば、デジタル経済レポートでは、自動車市場の隠れデジタル赤字について、現在の外資比率は車載OS/ミドルウェアが10%としているが「当社の市場認識では50%は下らないとみている」(同氏)という。この他にもADAS(先進運転支援システム)/AD(自動運転)は0%となっているものの、既にある程度浸透しているため2030年には30%になるとする。そして2035年における自動車市場の隠れデジタル赤字の規模は、車載OS/ミドルウェアが0.7兆円、ADAS/ADが1兆円、現時点でAndroidが席巻しているIVI(車載情報機器)が2兆円で、合算すると約4兆円になる。
デジタル経済レポートで指摘されている2035年時点の隠れデジタル赤字は、自動車市場で1.3兆円、産業機器市場で1.8兆円、通信機器市場で7000億円と推計しており合計額は3.8兆円だ。しかし、権藤氏の見立てでは自動車市場の隠れデジタル赤字は約4兆円と3倍になっている。同様の見立てが産業機器と通信機器の市場でも適用されるとすれば、2035年の隠れデジタル赤字は約11.4兆円まで膨れ上がる。さらには、自動車のSDVに代表される、モノを売るためにソフトウェアサービスを売るというアプローチであるSDX(Software-Defined Everything)化が進むことで既存のデバイス市場で発生する「SDX赤字」によって貿易収支の減少が起こる。デジタル経済レポートは、2035年のSDX赤字を最大約13.5兆円と見込んでおり、これを隠れデジタル赤字と合計すると24.9兆円に上る。先述のソフトウェアプロダクトのデジタル赤字18兆円を大きく上回ることになる。2018年時点の国内機械産業の貿易黒字額である26兆円に匹敵することからも、その赤字額の大きさが分かるだろう。
デジタル経済レポートが提起する隠れデジタル赤字とSDX赤字で重要なのは、モノづくりのソフトウェアにとって、ハードが売れないとソフトが売れないというモノの付随物としての組み込みソフトウェアの時代から、ソフトが売れないとハードが売れないというソフトウェアの付随物としてのモノという時代への移行が進んでいることだ。権藤氏は「アップルはiPhoneというハードウェアでもうけているが、iOSというプラットフォームとApp storeがなければ売れないだろう。SDXでも同じことになる」と説明する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.