「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する本連載。第9回は、海上自衛隊が計画を進めてきた新型艦艇である「哨戒艦」が目指す省人化の必要性、そして海上自衛隊艦船における自律運航技術導入の現状について整理する。
海上自衛隊(海自)が計画を進めてきた新型哨戒艦が、2025年に相次いで進水した。建造が明らかになってから「乗員30人規模」「1900トンクラス」といった要目が話題となったが、その背景には、海運業界と同様に避けられない“人員構造の変化”がある。艦艇要員の確保が難しくなる中、平時における広範囲の海上監視任務をいかに維持するかという課題に対し、海自も省人化に注力している。
2025年11月13日にジャパン マリンユナイテッドの横浜事業所 磯子工場で進水した哨戒艦の一番艦は「さくら」と名付けられた。同日進水した二番艦は「たちばな」。これらの艦名は、「陸上自衛隊または海上自衛隊の船舶の区分等及び名称等を付与する標準を定める訓令」で「鳥の名、木の名、草の名」を付与すると定めていることによる[クリックで拡大] 出所:海上自衛隊従来、海自の海上監視任務は、地方隊に配備された護衛艦「あぶくま」型などが担ってきた。しかしこれらの艦は、就役から数十年が経過したものも多く、設計思想も現在求められる任務とは大きく異なる。一方、最新の多任務型護衛艦(FFM)は対潜/機雷戦/遠洋哨戒など高度な任務に充てられることが多く、平時の定常監視に十分な艦数を振り向けることは難しくなっていた。
こうした状況で導入される哨戒艦は、「警戒監視任務に特化した艦」と位置付けられている。設計コンセプトは明快で、“攻撃されるリスクが低い平時において、日本周辺海域を継続して監視すること”に主眼を置いている。従って、要求される能力は汎用護衛艦とは大きく異なる。高い継続滞洋性、安定した巡航速度、そして長時間の監視任務に適した作業性が中心となる。
現時点での主要要目として基準排水量は1900トンクラスで、海自機動艦艇としては小型の部類に入る。乗員はおよそ30人規模とされ、護衛艦の一般的な乗員数(約170〜200人)や、省人化を大幅に取り入れた最新の護衛艦「もがみ型FFM」の約90人と比べても大幅に少ない。これは「30人で安全に運用できるように設計段階から省人化を織り込んだ艦」であることを示している。全長は95m、全幅12m。ディーゼル主機2基と推進電動装置2基によるCODLAD(ディーゼル電気推進方式)の2軸推進で20ノット以上(25ノット以上といわれている)と自衛艦としては控えめだ(本連載で取り上げたフェリー“けやき”に追い付けない)。
本記事では、海自の艦艇構成の中でもこれまでになかった役割を担うことになる哨戒艦という艦種の背景にある海自/商船共通の課題である省人化の必要性、そしてそれを支える自律運航技術の現状について整理していく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
モビリティの記事ランキング
コーナーリンク
よく読まれている編集記者コラム