新型哨戒艦が必要とされた背景には、日本近海における情勢変化と、海上保安庁(海保)と海自が担う役割の根本的な違いがある。尖閣諸島周辺では中国海警局(CCG)の船舶が常続的に活動し、日本側は海保が法執行主体として対処している。この状況を見ると「監視任務は巡視船で足りるのではないか」と感じられるかもしれない。しかし、両者は任務目的がそもそも異なっており、代替関係にはない。
海保は“海上法執行機関”として、領海侵入や危険操船、漁業取り締まりといった「事件」への即応が任務になる。一方、海自が担うのは「兆候」への即応だ。周辺国艦艇の動向変化、電子戦関連の兆候、異常接近といった軍事的シグナルを把握し、その先にある事態の変化を早期に察知することが目的となる。これは海上法執行機関では対処できない領域であり、海保と海自は同じ海域に展開していても“何を見ているか”が違うことになる。
従来、この海自側の役割は小型護衛艦が担っていたが、艦齢の進行と任務増大によって継続的な張り付き監視が難しくなっていた。また、もがみ型FFMのような多機能護衛艦は、対潜戦や機雷戦といった高度任務に時間を割かれ、平時監視へ十分な艦数を振り向けられない。「必要な監視は維持しつつ、艦隊の稼働率を圧迫しない」という観点から、新しい艦種=哨戒艦の必要性が浮かび上がったといえるだろう。
哨戒艦は、海自が担う兆候監視を“継続的に過重な乗員負担なしに”行うために、任務を絞って設計された専用プラットフォームだ。小型船体で武装も最低限(搭載武装の口径は海保巡視船と同等で中国海警局大型船が搭載する76mm砲などと比べると小口径)とし、複数のセンサー統合や省人化技術を取り入れることで、少人数での長時間運用を前提にしている。この点は、船員不足に対応して高度化が進む商船の省人ブリッジ技術と方向性が共通している。
一方で、小型化されているとはいえ哨戒艦はあくまで海自の軍用艦艇であり、海域によっては存在そのものが相手側の警戒感を高める“軍事プレゼンス”と受け取られる可能性がある。この点については、安全保障研究の分野でも、海保と海自の活動が同一海域で近接する際のエスカレーションリスクが指摘されている。従って、哨戒艦は「抑制的プレゼンス」を意図した設計でありながら、運用に当たっては慎重さが求められる。
とはいえ、技術的観点からみれば、哨戒艦は“省人化×監視任務の最適化”に基づいて導かれた現実的な解となるだろう。海保=事件対処、海自=兆候監視という2つの任務軸が明確に整理され、その上で海自側の必要能力を最小限の負荷で維持する――この要件を満たす艦種として、哨戒艦は合理的に位置付けられる。
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