マツダは2021年に向けて、エンジンや電動パワートレイン、プラットフォーム、デザインなど、さまざまな分野の取り組みを同時並行で市場投入する。「今後の研究開発計画を、今の人数でなんとかこなせるのはモデルベース開発を取り入れているから。単なる開発手法ではなく、ものの考え方だ」と同社 常務執行役員 シニア技術開発フェローの人見光夫氏は説明する。
やることが増えるが人は増えない、どうすればいいのか――。
マツダは2021年に向けて、エンジンや電動パワートレイン、プラットフォーム、デザインなど、さまざまな分野の取り組みを同時並行で市場投入する。「今後の研究開発計画を、今の人数でなんとかこなせるのはモデルベース開発を取り入れているから。単なる開発手法ではなく、ものの考え方だ」と同社 常務執行役員 シニア技術開発フェローの人見光夫氏は説明する。
マツダでは、モデルベース開発によって、実車で行うエンジンの適合開発(キャリブレーション)や試作台数を大きく抑えるなど開発の効率化に貢献した実績を積んでいる。モデルベース開発による今後のさらなる効率化について人見氏は「開発初期の構想段階を充実させて、事前に目標配分して迷わず仕事に打ち込めるようにする。まだ決まっていないことを抱えてもやもやと仕事をするのは効率が悪い」と説明。
また、「モデルには模範という意味もある。いい仕事ができればモデル化して再利用し、汎用性の高い仕事をできるようにしていく。商品は減らさず、仕事の種類を減らす。排気量が違うエンジンを、違うエンジンだと思わない。仕組みが分かってしまえば同じモノとして扱える」(人見氏)と仕事の在り方に触れた。
マツダがCAEを本格的に活用し始めたのは2004年ごろだ。当時は「CAE検証率(最終的な図面を書く前の計算解析による検証の実施率)は10%に届くかどうかだった」(人見氏)という水準だったが、2018年現在は80%まで高まった。2019年に投入する新型ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」も、CAEで燃焼解析ができなければ開発の取り組みすら始まらなかったと振り返る。
CAEの本格的な活用が必要になったのは、各国で強化される環境規制に対応し、少ない開発人員で第1世代のSKYACTIVエンジンを一括企画するためだ。“排気量が違うエンジンを違うエンジンだと思わない”という発想で、ハードウェアだけでなく燃焼特性を共通化した。「適合開発は膨大な工数を費やす。吸排気のバルブタイミングや点火時期、噴射時期、エンジンが温まり始めたらどうするか……と動きのパラメータを教え込む作業だ。これが同じような特性を持ったエンジンであれば、適切なパラメータが似たところにあるから適合作業を効率化できる」(人見氏)。
試作を従来よりも減らしているとはいえ、新技術を初めて導入する場合には時間や手間をかける。開発効率化の効果が出始めるのは2機種目からだという。実際に排気量2.0l(リットル)のエンジンに対し、派生機種となるエンジンは開発期間を従来の半分に、適合開発は3分の1に減少。少人数かつ短期間で実施できるようになった。
こうした効果は商品化までの期間の短縮にもつながる。導入する技術を検討する際に、これまでは試作と試作の改良を繰り返していたのが、モデルで諸元を検討してモデルが正しいことを確かめるための試作をするようにしていく。モデルを使った制御開発を適用する範囲も拡大する。前世代は制御開発の75%を実車で行っていたが、現行モデルは実車での制御開発は25%まで減少し、モデルベース開発による机上での適合開発が75%に増えた。次世代商品のエンジンやトランスミッションなど車両全体で机上適合開発を95%まで増やす計画だ。
現在の開発規模では、モデルベース開発の適用範囲が少なければ車両試作台数が大幅に増加することが想定されるが、モデルベース開発の活用により試作台数を抑制できているという。「試作が減るということは単なるコスト削減ではない。試作でモノが増えればそれだけ仕事が増える。むやみにモノを増やさないということは仕事を増やさないことでもある」(人見氏)。
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