モデルベース開発は単なる手法でなくモノの考え方、マツダ流の取り組みとはモデルベース開発(2/2 ページ)

» 2018年10月09日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
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より複雑なモデルの活用へ

マツダの足立智彦氏(クリックして拡大)

 今後、ECU(電子制御ユニット)の搭載数増加や、ECU同士の連携強化により、「仕事は掛け算で増える」(人見氏)という見通しだ。乗員や周辺環境との連携、各国の異なる規制もからみ、実機のすり合わせでは開発できない複雑さになる。そのため、複雑なシステムをモデルで自由に開発できる技術がないと生き残れないとマツダは危機感を持つ。

 マツダでは現在、車両全体のプラントモデルと制御モデルに加えて、人間が走行環境からどのように認知するか、判断や操作がどのように制御系につながるかについてもモデル化しようとしている。クルマの出力や特性、走行性能、運転する人間について、それぞれの“からくり”をモデル化し、試作前にCAEで徹底的に考えるという。人間の感覚に合うクルマをどう開発するかという基準の下で、「1つを決めれば全体をやり切れるという要因」(マツダ 統合制御システム開発本部 首席研究員の足立智彦氏)を決めてモデル化し、開発を進める。最終的には試作レスで車両を開発するところまでを目指す。

 マツダのモデルベース開発の取り組みは、デンソーやトヨタ自動車と立ち上げた新会社、EV C.A. Spiritにもつながる。新会社では、幅広い車種やセグメントをカバーするEV(電気自動車)専用のアーキテクチャを作る。バッテリーなど技術の進化が速い中で、起きうる変化や新しい技術を取り入れられるよう準備を進める。カバーするセグメントや検討する技術の幅が広いため、モデルベース開発が重要になる。

日本の自動車産業全体でもモデルベース開発の活用を

 マツダはモデルベース開発を通じた産学、企業間の連携にも取り組む。自動車メーカーとサプライヤーが連携しなければ開発力向上に限界があるためだ。日本の自動車産業全体で取り組むべきテーマだと人見氏は主張する。

 「AICEの賛助会員を増やして薄く広くお金を集める。また、SIPの100億円で新しい成果が出てきたように、官もモデルベース開発にまとまって補助金を出してほしい。まとまったおカネが集まれば、大学は学術的に価値のある領域をモデル化できる。お金と設備がないことを理由にモデル化されていない技術は多い。大学もやる気を持って取り組んでくれるし、ツールベンダーも日本に使いやすいものを作ってくれるだろう。サプライヤーは新規提案できる。サプライヤーもユーザー規模できちんと儲かる。ソフトウェア会社も教育に資金投入して人材を育成できる」(人見氏)

 経済産業省も、自動車業界全体でのモデルベース開発の活用を後押しするため、モデル同士をつなぐインタフェースを公開している。サプライヤーがモデルベース開発に取り組み、自動車メーカーにモデルで新しい部品を提案できるようにするための施策だ。インタフェースは、モデルへのインプットとアウトプットを共通化したものだ。モデルの内部は差別化領域として残すが、温度や回転、熱、トルクといった物理の原理原則となる部分を公開する。これにより、自動車メーカーが持つモデルと、サプライヤーが提案したい部品のモデルを接続して性能を検証できるようにする。また、経済産業省は、性能を検証するための車両モデルも公開中だ。

 「自動車メーカーごとのインタフェースの仕様の違いは、サプライヤーからは受け入れられなくなる。特に欧州の大手サプライヤーは受け入れない姿勢を示している。いろいろな機能が入ったクルマを開発する上で、モデルをつなぎやすくすることは、やらなければならないポイントだ」(足立氏)

 また、足立氏はこうした取り組みにより、新開発の部品をモデルでやり取りして燃費改善効果などを検証し、性能の改善などを短期間で進められると説明した。サプライヤーがモデルベース開発を推進するメリットとしては、実機テストの高いハードルを超えなくても技術を提案できることや、モデル上で目標の機能などを調整できること、開発上の課題がサプライヤーにもシステムとして見えやすくなることがあるという。

 マツダはまずは本拠地である広島から、サプライヤーや地域の大学、高専とともにモデルベース開発を推進できる体制を作る。ひろしま自動車産学官連携推進会議のモデルベース開発専門部会が主導している。マツダと地域のサプライヤーが地元のエンジニアリング会社やソフトウェア会社にモデルベース開発業務を委託し、地域の大学や高専からは人材を供給する。自動車の開発に魅力ある雇用を創出しながら、モデルを活用して新技術を共同開発していく考えだ。

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