これまでガソリンエンジンの過給ダウンサイジングに否定的だったマツダが、2016年春に北米で発売する新型「CX-9」に、「SKYACTIV-G」で初となるターボエンジンを搭載する。マツダ 常務執行役員の人見光夫氏は「“意味ある”過給ダウンサイジングができる条件がそろったからだ」と理由を説明する。
マツダが2015年11月19日に発表した新開発の排気量2.5l(リットル)直噴ターボガソリンエンジン「SKYACTIV-G 2.5T」は、新世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-G」では初となるターボエンジンだ。2016年春から北米市場で販売するフラッグシップSUV「CX-9」の新モデルに搭載する。CX-9は、従来の排気量3.6lのV型6気筒エンジンから、新モデルでは同2.5lの直列4気筒ターボエンジンにダウンサイズする格好だ。
しかし、SKYACTIVエンジンの生みの親であるマツダ 常務執行役員の人見光夫氏は「実用燃費で本当に優れたエンジンなのか」と発言するなど、多くの自動車メーカーが開発を競うガソリンエンジンの過給ダウンサイジングに対して否定的だった。新開発の排気量2.5lターボエンジンの投入は、人見氏のこれまでの発言と矛盾しているように思える。
同氏は「ターボエンジンを絶対にやらないと断言したことはないし、一定の条件を満たせば、意味のある過給ダウンサイジングが可能になるとも話してきた。今回のターボエンジンは、まさにその条件がそろったから開発することにした」と理由を説明する。
人見氏が過給ダウンサイジングに否定的だったのは、「世界一」(同氏)とする高圧縮比を実現した自然吸気のSKYACTIVエンジンと比較して3つの短所があるからだ。1つ目は、ダウンサイジングターボは高負荷域や高速域での燃費が劣る点だ。2つ目は低速トルクやレスポンスの良さが自然吸気エンジンと同等にならない点。3つ目は、過給機やインタークーラーの追加によってコストが高くなる点だ。
過給ダウンサイジングによって排気量を小さくしたエンジンよりも、排気量の大きい自然吸気のSKYACTIVエンジンの方が低コストであり、実用燃費に優れている。このため、燃費改善技術としての過給ダウンサイジングに疑問を示してきたのだ。
同氏は「燃費を改善する手法として過給ダウンサイジングがあるのは理解している。しかし、SKYACTIVが目指してきた世界一の高圧縮比の方が実用燃費には効果があると確信している」と自信を見せる。
過給ダウンサイジングが効果を発揮するのは低負荷域だ。欧州の燃費測定モードであるNEDC(新欧州ドライビングサイクル)は、燃費を測定する際に低トルクの領域を多用する。そのため、NEDCモード燃費の改善、つまり軽負荷での燃費改善に役立つダウンサイジングターボが普及したと同氏は指摘する。
ADAC(ドイツ自動車連盟)が計測した実用燃費の調査によると、排気量2.0lのSKYACTIV-Gは、Bセグメント車に搭載されている排気量0.9〜1.2lのターボエンジンとそん色ない実用燃費だ。
ダウンサイジングは「排気量を減らせば燃費が良くなるという単純な話ではない」(同氏)という。元の自然吸気エンジンの排気量から過給機の搭載によって得られたエンジン排気量から求められるダウンサイジング比率を高め過ぎると、高負荷域ではノッキング(異常燃焼)が起きやすくなる。ノッキングを回避するために点火時期を遅らせる方法があるが、この方法では燃費改善効果が低くなる。人見氏は「それでも欧州を中心とする海外メーカーは、実用燃費ではなくモード燃費(カタログ燃費)を優先する傾向にある」と強調する。高圧縮比のSKYACTIVエンジンは、モード燃費ではあまり重視されない中/高負荷になるほど燃焼効率が高く、この領域ではダウンサイジングエンジンよりも優位になる。
また、過給ダウンサイジングエンジンは自然吸気エンジンよりも圧縮比が小さくなる傾向もあり、高圧縮比を実現したSKYACTIVエンジンが有利になる。
このような理由から、高圧縮比+自然吸気のSKYACTIVが勝るという。過給ダウンサイジングが排気量を小さくする=気筒数を減らすことで損失抵抗を下げるメリットよりも「「排気量が大きい自然吸気エンジンは実用燃費で超えられる」」(同氏)と見る。
さらに、時速160kmの高速走行時や、時速200km以上の最高速走行時の実用燃費でも差がつき「ドイツのアウトバーンでは、排気量2.0lのSKYACTIVエンジンが、競合モデルの排気量1.4l過給ダウンサイジングエンジンを上回る」(同氏)と説明した。
低負荷域でも過給ダウンサイジングエンジンと差をつける方法として、同氏は気筒休止を挙げる。「過給ダウンサイジングの排気量1.0lの3気筒エンジンや同1.4lの4気筒エンジンと比べて、気筒休止を入れた同2.0lや同2.5lのSKYACTIVエンジンは、全ての運転領域の実用燃費で優れている」(同氏)と自信を見せる。
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