米国コンシューマーリポート誌の調査で、小排気量のターボエンジンの燃費低減効果は期待通りでないことが示されている。また、過給機が加速に寄与するまでは時間差があり、動力性能に不満が出るという。
例えば排気量2.0lターボエンジンは、アクセルを踏んだ直後は排気量並みの加速しかせず、過給機に排気が届いてから出力が追い付く。そのため加速のレスポンスが悪化する。これを同1.8l、同1.5lとダウンサイジングすればするほど、発進時や加速時の低速トルクが出せなくなるため「過給ダウンサイジングエンジンは大排気量エンジンの代わりはできないと思っている」(同氏)。
走りに不満を感じさせるだけでなく、過給機をつけることでコストも高くなり「後半の方の数百ドルくらい価格差が出る」(同氏)という。SKYACTIV技術によって走る歓びの実現を掲げるマツダが、コストを上げた上に走りを犠牲にするわけにはいかない。
人見氏は過給ダウンサイジングを一切やらないのではなく、既存の過給ダウンサイジングエンジンが持つ課題を克服できる時に採用するという考えだった。高負荷や高速域での実用燃費の悪化/加速のレスポンスの低下/コスト上昇というダウンサイジングターボの課題をどのように解決したのか。
低速トルクを引き出す上では新開発の「ダイナミック・プレッシャー・ターボ」がさまざまな役割を果たした。タービンの手前に設置したバルブを閉めることで、低速域でも過給機のタービンを回す排気を送りこめるようにした。放水するホースの口をつぶすと勢いよく水が出るのと同じ要領だという。
これは、シリンダーから効率よく空気を吸い出す効果もある。シリンダー内の高温の残留ガスと一緒にノッキングの原因となる燃えかすも吸い出されるため、ノッキングの低減にもつながる。シリンダー内の燃えかすは「10%程度残るのが普通だが、ダイナミック・プレッシャー・ターボで1%まで減少する」(同氏)としている。
排気と同時に吸気も改善する。空気がよく入りよく燃えるため、排気ガスのエネルギーが増えて、過給機のタービンがよく回る。ノッキングせずにトルクを一気に増やせるので、自然吸気なみの応答性と、排気量3.7lのV型6気筒エンジン並みの加速を両立できた。
新開発の排気量2.5lターボエンジンはSUVで使用頻度の高い1000〜3000rpmのエンジン回転数の範囲で、他社と比較して高いトルクを出せる。
ターボエンジンは無過給の自然吸気エンジンと比べて圧縮比が低くなる。その分の燃費を補うためにV型から直列に変更して機械抵抗を低減した。
V型6気筒エンジンあるいは直列4気筒エンジンを、シリンダーの並び方を変更せずにそのまま排気量を小さくするのに比べて、排気量3.7lのV型6気筒から、同2.5lの直列4気筒に変更すると、機械抵抗を大きく低減できる。これにより、圧縮比が低下したことによる高負荷でのハンディをカバーした。
直列化により、吸気側の電動VVT(可変バルブタイミング機構)や排気VVT、高圧燃料噴射装置はコストを半減した。シリンダーヘッドやエキゾーストマニホールド、触媒も同様にコストを半分に抑えられた。また、気筒数に合わせてバルブやインジェクター、プラグやコイルも3分の2にコストを低減。これらの工夫でターボ搭載のコストを捻出した。同じ気筒数で小排気量化したり、気筒数を減らしたりするだけでは、高価な部品で増加するコストを抑えられなかったという。
さらに、直列化によりエンジン自体の軽量化も図れた。「V型でSKYACTIVエンジンを作ると大型化するので難しかった」(同氏)という。
実用燃費の改善にはクールドEGR(排気再循環)も貢献している。他の手法と比べて10℃以上の冷却効果があり、排気量2.5lの既存の自然吸気エンジンの部品を流用してコストを低減できた。自然吸気エンジンに過給機をつけるだけだと熱負荷が大きくなり、部品をそのまま使えず設備投資が増加してしまう。
また、排気ガス温度が下がると燃費も改善する。排気ガス温度が高いと、過給機や触媒など排気系を守るために燃料を濃くする領域が必要になる。クールドEGRは冷却効果が高いため、時速130kmまで燃料を濃くする必要がなく、高速域での燃費向上に貢献する。
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