アンシス・ジャパンのユーザー向けイベント「自動運転からEVまで シミュレーションで実現する設計開発ソリューションセミナー」で、モデルの流通に向けた課題や取り組みについてトヨタ自動車 電子制御基盤技術部 主幹の辻公壽氏が講演した。
自動車業界で、モデルベース開発を推進する機運があらためて高まっている。経済産業省は、日本の製造業が強みとしてきた「すり合わせ」を深化させる手段としてモデルベース開発をサプライチェーン全体に普及させ、自動車業界の競争力を高めようとしている。
自動車メーカー9社とアイシン・エィ・ダブリュ、ジヤトコで結成した「自動車用動力伝達技術研究組合(Transmission Research Association for Mobility Innovation、TRAMI)」は、産学連携の強化に向けて、基礎研究の成果をモデルでやりとりして共有する環境を整える。
いずれの取り組みも目指すのはモデルの流通だ。しかし、「従来のモデルベース開発のツールでは、モデルの流通に課題がある」とトヨタ自動車 電子制御基盤技術部 主幹の辻公壽氏は指摘する。アンシス・ジャパンのユーザー向けイベント「自動運転からEVまで シミュレーションで実現する設計開発ソリューションセミナー」(2018年6月1日)で、モデルの流通に向けた課題や取り組みについて、辻氏が講演した。
辻氏はモデルベース開発の普及を次のように振り返った。「『ゾーン1』は、社内での性能開発のために、自分たちで把握してモデルを作っていた時期だ。しかし、クルマは自動車メーカーだけで作っているのではない。現在は『ゾーン2』で、サプライヤーと自動車メーカーでモデル流通が必要になってきている。モデルを入れてもらってシステムを作り、その上に性能を載せて一緒に議論していけると良いという段階だ。ティア1やティア2のサプライヤー、または他の業界と連携するとなると、それぞれが違う種類のツールを使うことが考えられる。そこで、互換性や接続性がなくてはならないし、データ形式の共通化も不可欠だ。本当にモデルの流通が実現するのが『ゾーン3』になる」(辻氏)。
モデルベース開発は、信頼性や安全性の検証でも重要度を増していくという。「自動運転システムの自動化レベルが2から3に上がることで、評価すべきポイントが2億点増えるといわれている。これをリアルテストで追い切れるのか、という状況で、シミュレーションがエビデンスとして使われるようになる。欧州の研究助成プログラム『HORIZON2020』では、2020年を起点にリアルテストからバーチャルテストに切り替えていこうという活動も進んでいる」(辻氏)。
モデルの流通だけでなく、客観性も求められる状況下では、「スタンダードな方法で作ったモデルと、スタンダードで決められた評価方法で結果を示せることが重要だ」と辻氏は指摘した。モデルベース開発で国際標準に準拠することが求められるとする一方で、「標準という概念を持たずに、ツールベンダーが売り込んだツールをそのまま使っている状況がある」(辻氏)という。
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