現在使われているモデルベース開発ツールは因果系モデルと非因果系モデルに分けられる。因果系モデルは「人が運動方程式を立てて、伝達関数に合う形に解かなければならない。使い方を変更する時に、全体の方程式も変わる。自動的に修正する機能がないので、式のつなぎなおしが手動で必要だ。社内で修正まで全てできるなら問題ないが、うまくいかない時に他社に情報を開示する前提で、式をつなぎ変える工数がかかる想定だと流通には向かないのではないか」(辻氏)。
因果系モデルの欠点を克服したのが非因果系モデルだという。辻氏によれば、因果系のようにインとアウトといった方向がないのが特徴だ。「それぞれの要素に関係する式があり、結線することでつながりを表現する。運動方程式がいらないので楽だ。ツール側で、結線状態全体の式を立てて解いてくれる。流通には便利な形態だ」(辻氏)。
しかし、モデルの流通までを踏まえたツールには現状で決め手がないという。ツールベンダー各社がさまざまなデータ形式を採用しており、互換性がないためだ。データ形式を統一するにはどうすればよいか。辻氏は、3D CADやPLC制御のようにツール間のデータ共有のために国際標準を採用することを説明した。「3D CADも、モデルベース開発と同様にデータのやりとりが必要になる。そのため、STEPという中間ファイル形式をサポートしている。どのツールでも、過去のデータも受け取れるように互換性を担保して、全体がつながる仕組みができている。これにより、仮想開発や仮想認証が実現できる」(辻氏)。
モデルの流通を前提としたモデルベース開発ツールでは、非因果系モデルのメリットを生かし、ツールベンダー各社の独自性を残しながら、プライベートな言語仕様でない、国際標準の物理モデリング言語で記述できることが必要だという。
VHDL-AMS(IEC61691-6)は物理系の対象領域が言語体系として公開されており、IP保護にも対応できる。アナログとデジタルの両方を記述できる言語なので、車両のシステム全体の議論にも使用できるという。
すでに、ドイツ自動車工業会がVHDL-AMSで339個のモデルを無償公開しており、日本に先行して自動車メーカーとサプライヤーの間でモデル流通が始まっている。日本の自動車技術会も同様に無償公開モデルを準備中だ。
トヨタ自動車では、2021年に発売する量産モデルの制御開発において、サプライヤーに対して電装品のハードウェアモデルをVHDL-AMSで提供するよう要請している。VHDL-AMSによって各部品に互換性を持たせた車両モデルを構築。シミュレーションで実測値とそん色ない数値が得られることを確認しており、エンジンの電子制御をシステム全体で見て議論したり、エアコンが燃費に与える影響の検討をシミュレーションで行ったりしているという。
次世代のモデルベース開発ツールの確立に向けて、ユーザーが使い勝手など要望を出していくことも必要であり、同氏は自動車技術会の「国際標準言語によるモデル開発・流通検討員会」で幹事として普及活動に取り組んでいる。
辻氏は、「スタンダードに合わない仕組みでやっていると、誰かが決めたスタンダードのために今までの仕組みを捨てなければならない時が来るかもしれない」と述べ、国際標準に準拠したモデルベース開発に取り組むことと、ユーザーとして要望を発信することが重要だと締めくくった。
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