ついにモデルベース開発を適用した「CVT∞」を完成させた京子たち三立精機の制御設計チーム。成果報告のための会議で説明担当になった京子だったが、そこでこれまでとは異なる種類の課題にぶつかることになった。
豊産自動車や他のサプライヤとともにモデル結合を行って、「バンビーナ」を搭載する「CVT∞」のECUに必要な仕様は固まった。京子たち三立精機の制御設計チームは、再度モデルの修正と検証を進めて、実際の車両を使った実機検証に挑むことになった……(前回の記事へ)。
私たち制御設計チームは、苦労しながらも、モデルベース開発を適用した「CVT∞」の開発を何とか完了させることができた。
山田課長は書き上げた開発報告を読み返して、大滝部長の所へ向かうと告げて席を立った。CVT∞の開発とモデルベース開発の成果報告を行うためである。
これでわが社も、モデルベース開発で自動車業界の技術をけん引して行けるな!
楽観的とも思える大滝部長の言葉に、山田課長は進言した。
いいえ、まだ第1段階にすぎないと思います。次は、いかにして、製品開発業務にモデルベース開発を浸透させて、整然とした製品開発を実現させるかが最重要課題になるのではないでしょうか。部門レベル・会社レベルにおける開発プロセスの整備や人材育成などについての課題も見えてきました。これらの対応も急務と言ってもよいでしょう。
そうかもしれんな。鉄は熱いうちにたたくべきだろう。それでは、モデルベース開発の必要性と価値を、皆と共有化することから始めるとするか。それでは山田君、CVT∞のモデルベース開発について、成功事例として社内で発表してもらいたい。
うれしそうな顔をしながら自席に戻った山田課長は、CVT∞のモデルベース開発を成功事例として社内発表する件について、制御設計チームのメンバーに展開した。ブレーンストーミングで発表内容について話し合い、骨子を決めていく。
山田「それじゃあ次は、発表者を決めましょう。」
山田課長が発表するものと思っていた私たちは、少し戸惑った。
今回の成功は皆さんの努力の成果です。その皆さんから、ぜひともこの人に発表してもらいたいと思う人を推薦してもらいたいんだけど。
そこで大島さんが爆弾発言。
小野が一番頑張った。発表もやってほしいな。
他の人たちからも賛同の声があがる。
(え……。私なんかでいいのかな……。)
突然の展開に驚いたものの、これまでのいろいろ取り組んできたモデルベース開発について、今回のCVT∞の開発に関わった人だけでなく、もっと多くの人たちに知ってもらいたいという気持ちが沸々とわき上がってきた。
(よーし)……私、前のめります!
私は決意して、いつもの決めゼリフで答えた。推薦してくれた大島さんもうれしそうだ。チームのみんなも笑顔になる。
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