アジャイルに進化したJASPARがSDVのAPI標準化をリードするSDVフロントライン(1/3 ページ)

100年に一度の変革期にさらされている日本の自動車業界が厳しい競争を勝ち抜くための原動力になると見られているのがSDVだ。本連載では、自動車産業においてSDVを推進するキーパーソンのインタビューを掲載していく。第3回は、車載ソフトウェアの国内標準化団体であるJASPARの運営委員長を務める井野淳介氏に話を聞いた。

» 2025年05月21日 10時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 自動車業界においてソフトウェアが果たす役割が大きく高まるSDV(ソフトウェアデファインドビークル)の開発が加速している。国内において、車載ソフトウェアの標準化を進めてきたのがJASPAR(Japan Automotive Software Platform and Architecture)だ。

 2004年9月の設立から20年以上が経過したJASPARだが、自動車技術の進化と同期する形で、標準化の対象は車載ネットワークやAUTOSAR、機能安全、車載セキュリティなど多岐にわたっている。そしてSDVについても、新たなWG(ワークグループ)を立ち上げて取り組みを始めたところだ。そこで今回は、日産自動車 電子技術・システム技術開発本部 ソフトウェア開発部 部長でJASPAR 運営委員長を務める井野淳介氏に、JASPARがSDVにどのように取り組んでいくのかについて聞いた。

連載「SDVフロントライン」

 製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進みつつある中で、トヨタ自動車を率いる豊田章男氏によって印象付けられた「100年に一度の変革期」という言葉に代表される通り、自動車産業も大きな変革の波にさらされている。その変革の波を端的に示す言葉として知られるのがダイムラーが2016年9月のパリモーターショーで提唱した「CASE」(コネクテッド、自動運転、サービス/シェアリング、電動化)だ。そして、このCASEの推進を支える原動力になると見られているのがSDV(ソフトウェアディファインドビークル、ソフトウェア定義型自動車)である。本連載「SDVフロントライン」では、自動車産業においてSDVを推進するキーパーソンのインタビューを掲載していく。

⇒連載バンクナンバーはこちら

「自動車メーカーでは結構珍しいキャリアかもしれない」

MONOist これまでの日産自動車(以下、日産)での経歴についてお聞かせください。

JASPAR 運営委員長の井野淳介氏 JASPAR 運営委員長の井野淳介氏

井野氏 日産の入社は1992年で、追浜の総合研究所(神奈川県横須賀市)内にあった電子開発部の配属になった。大学では半導体に関する研究を行っており、電子開発部でも半導体に関する知見を生かして研究開発業務を行うこととなった。当時の日産は、半導体の設計や内製にも取り組んでおり、研究所内に内製のための本格的な半導体製造ラインも持っていた。

 電子開発部はエアバッグやABS(アンチロックブレーキシステム)の社内標準化を担当していたが、その一環として2個のECU(電子制御ユニット)で構成していたABSについて、1個のECUに統合するためのカスタムASICの開発を担当することができた。その後、4〜5年ほどABS関連の開発を続けた後、座間工場(神奈川県座間市)に異動してECUの開発を担当することになった。ABSの他、ACC(アダプティブクルーズコントロール)、パワーエレクトロニクス系のインバーター、ステアリングやブレーキのバイワイヤー技術の先行開発なども手掛けた。自動車メーカーの中でティア1サプライヤーのような業務を担当してきたというキャリアは結構珍しいかもしれない。

 2005年に管理職となってからは、「フーガ」のハイブリッドシステムの制御ソフトウェアや、コネクテッドシステム関連のツールの開発を担当するなどして、ソフトウェア開発にも関わるようになった。そして、2017年にソフトウェア開発の部署を立ち上げ、2019年からは部長を務めている。

MONOist 2024年5月にJASPARの運営委員長に就任しました。

井野氏 JASPARには2004年5月の設立当初から参加している。初代運営委員長の安達さん(日産自動車の安達和孝氏)に付いてきた形だが、マイコンやソフトウェアのWGで主査も担当するなどJASPARの活動に深く関わってきた。2014年には副運営委員長に就任している。今回の運営委員長への就任は、前任の橋本さん(ホンダの橋本寛氏)が定年されるのを期にバトンタッチしようということで決めた。

 これまでJASPARではさまざまな活動を行ってきたが、2010年ごろに経済産業省の補助を受けて実施した機能安全関連の国家プロジェクトは、同プロジェクトとの関わりが深いソフトウェアWGの主査をちょうど担当していたこともあり印象が強い。東京のお台場で、トヨタ自動車、日産、ホンダの3社で実車を使った技術成果のお披露目を行うなど、対外的なアピールを行ったこともある。

MONOist 現在のJASPARの体制について教えてください。

井野氏 トヨタ自動車、日産、ホンダ、デンソー、豊田通商(設立時は豊通エレクトロニクス)の5社が幹事会社であることなど含めて、設立時から大きく変わっているわけではない。活動の対象になるのは、自動車の電子ソフトウェア領域における標準化や共通利用といった横串を通して横断するための機能の開発であり、テーマごとのWGに分かれて活動を行っている。

 現在のWGは、機能安全、AUTOSAR標準化、コネクティビティ、次世代高速LAN、情報セキュリティ推進傘下の情報セキュリティ技術とOTA技術、API技術の8つ。2025年2月に新たに加わったのが、SDVとの関わりが最も深いAPI技術のWGだ。これまでもさまざまなWGがあったが、一定程度役割を終えた際に他のWGに統合していくこととしている。

JASPARの体制図 JASPARの体制図 出所:JASPARのWebサイト
       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.