原価低減は、“ものの見方と考え方”につきるといっても過言ではありません。企業の事業活動で大切なのは、利益を継続的に確保していくことであるというのは前述した通りです。しかし、原価低減と称して、得られた削減経費が利益を生み出していない事例が身の回りにたくさん見受けられます。このような事例を総称して「取らぬ狸の皮算用」とか「見かけの能率」といいます。
例えば、作業改善の結果、ある作業が30分早く終了することができるようになったとすると、この余剰の30分をどのようなことに活用しているかが重要なのです。何もしていなければ、利益どころか、その作業者の休憩時間が増えただけとか、暇な時間に要らないモノを造って仕掛かり在庫を増やしているというような状況になっていませんか。また、日当たりの生産能力が1000個の工程に対して、売れる見込みもないのに多額の設備投資をして1200個に生産能力を上げてしまうという例などが多く見られます。今までの改善活動の在り方やその内容をこの機会に見直してはいかがでしょうか。
さらに大切なことは、三現主義(現場、現物、現実)の徹底と、科学する心の醸成です。常に合理性を追求して止まない真摯な態度に加え、科学的な分析眼を働かせることが重要です。上手に困って、問題を発見をしていく思考の科学性が大切なポイントになります。
科学する精神とは、自分で現象を捉え、それが起こった原因や理由に疑問を抱き、自分の頭で思考を組み立てながら1つ1つ疑問を解き明かしていくことだと思います。科学の基本精神は、ものごとを冷静に見つめ、客観的な真実が浮び上がるまでトコトン追究していくことをいいます。
次に、今では誰もが承知しているはずの「三現主義」に徹することです。「三現主義」とは“現場・現物・現実”という、3つの“現”を重視しなければ、物事の本質を捉えることが難しいという考え方のことをいいます。例えば、工場などの生産現場で、何かの不具合が見つかったときに、状況だけを聞いて机上で判断を下した場合、間違った意思決定や対策をしまうかも知れません。
不具合が作り込まれた工程(現場)を見て、不具合そのもの(現物)を見て、不具合に起きている状況(現実)を見るという“三現主義”を徹底すれば、より真因や正しい判断に近づくことできます。要は、“現場・現物・現実”の三つの“現”を重視して、問題が発生したときに、現場で不具合の起きた現物を見て、どのような状態であるのかを確認して解決を図ることですが、現場や現物を見ることなく、過去の経験や思い付きによって、机上でいろいろなことが知らず知らずのうちに、判断されていることが多いものです。
このような考え方に立脚すれば、「科学的思考」と「三現主義」は、ほぼ同意と理解しても間違いということではないと考えます。また、このことが日常的に行動として習慣化したとき、「ものの見方と考え方」のパラダイム(思考や概念の枠組み)が変移するのではないでしょうか。このところ、不良対策を始めとするいろいろなことが、現場や現物をよくよく観察することなく机上で安易に判断され、拙速に意思決定されているように思います。
MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)
日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、および日本IE協会、神奈川県産業技術交流協会、県内外の企業において管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。
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