私は、そんな現状を踏まえた現実的なものとして、2D図面の運用とその重要性を考えています。デジタルエンジニアリングを推進している方の中には、「何でいまさら2D図面なのか?」と言う人もいるかもしれません。
でも、3D CADを使用してアセンブリを設計している設計者は、そのアセンブリを構成する部品の情報を“きっちりと”定義しているのでしょうか。部品の大きさや形状は部品を3Dとして表現している上で定義されていきますが、3Dモデルの属性情報は詳細に定義しているのでしょうか。
なお、ここで言う属性情報とは、以下を指しています。3D CADの中では属性などと言っていますが、設計上は重要であることは言うまでもありません。
流用図面なら、これらが初めから定義されていることはありましたが、新規図面であれば部品図を描きながらこれらを定義します。
JISにも、図面の具備すべき要件として、以下のように記述されています(下記はJIS Z 8310:2010より引用、原文ママ)。
図面は,要求事項を達成するために,次の要件を満たしていなければならない。
a)要求される情報を含む。製作図の場合には,対象物の図形とともに,必要とする大きさ・形状・姿勢・位置・質量の情報を含む。必要に応じて,更に材料,加工方法,表面性状,表面処理方法,検証方法,図面履歴,引用規格・文書,図面管理などの情報を含む。
c) a)の情報を,明確,かつ,理解しやすい方法で表現する。
d) あいまいな解釈が生じないように,表現・解釈の一義性をもつ。
このJISの規定に基づき、設計途中の設計者が3D CADの中の部品に属性を定義していくことはできるでしょうか? また3D CADデータとして表現できるでしょうか? さらには、社内のシステムや社外との連携において、そのようなデータを運用・管理できるでしょうか?
少なくとも、最終的な3Dモデルに対して、JISが要求する内容に基づいたさまざまな設計情報を定義すること自体は、現状のソフトウェアで可能です。
また「3D図面」(3次元単独図)として分かりやすいものとして運用することも可能です。例えばSOLIDWORKSでは自動寸法スキームや「DimXpert」という機能を用いて、3Dモデルに寸法公差や幾何公差を表現する機能があります。また「SOLIDWORKS MBD」という製品によって、2次元図面レスで情報を設計工程から製造工程に伝達するような、「テクニカルコミュニケーション」という仕組みが構築されています。他にも、XVL(ラティス・テクノロジー)やJT(シーメンスPLMソフトウェア)といった3Dビュワーの技術によって、3Dデータを共通の仕組みによって運用していくような社内一貫・社外連携の仕組みも構築されているという話も聞きます。
しかし、これらもまた一部先進的な企業や、大手企業でのPLMという大きな仕組みの中で活用されているに過ぎません。
そこから生まれる効果は私自身も十分に理解しているのですが、うちのような規模の会社が導入するには、その仕組みを運用する際の負荷や導入費用の壁があるのは事実です。
パーツからアセンブリを構築する、アセンブリからパーツを切り出していく、パーツを作成する、あるいはパーツを切り出すといった時点で、パーツに対して、出図段階の正しい公差・幾何公差情報を定義していくことは、私の設計者としての経験から考えても容易ではなさそうです。
それでは、定義する作業を加工部門や外部の精密部品加工会社に任せればよいでしょうか。大量生産を行う部品においては、その工数分の費用を、受注金額の中で吸収することも可能かもしれませんが、単品発注の部品では、発注元が求めるコストダウン要求と併せて、さらにその工数費用を吸収するなどということはまず不可能でしょう。
今回お話したかったのは、出図という設計作業を行う上で3Dデータをもっと活用するためには、とにかく“設計のやり方”を変えていかなければならないということでした。
3D CAD推進を始めたばかりの当時の私は、CAD/CAM連携が、発注元と発注先をWin-Winの関係で結ぶ存在になると確信していました。しかし、結果はそうはなりませんでした。しかしながら、今後3D CADの普及がより加速していくことによって、その実現可能性は急速に高まっていくことでしょう。昔は失敗したものの、その時にトライした仕組みというものは決して無駄ではなかったと思って、今も次のチャンスを狙っています。
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