産業技術総合研究所は、和光純薬工業と共同で、移植用細胞から腫瘍を引き起こすヒトiPSやヒトES細胞を除く技術を開発した。新開発の薬剤融合型レクチンは、分化した細胞に影響を与えずに、未分化ヒトiPS/ES細胞だけを選択的に除去できる。
産業技術総合研究所(以下、産総研)は2015年4月10日、移植用細胞から腫瘍を引き起こすヒトiPSやヒトES細胞(以下、ヒトiPS/ES細胞)を除く技術を開発したと発表した。同研究所創薬基盤研究部門の舘野浩章主任研究員、平林淳首席研究員、幹細胞工学研究グループの小沼泰子主任研究員、伊藤弓弦研究グループ長らによるもので、和光純薬工業と共同で行われた。
ヒトiPS/ES細胞は、再生医療のための細胞源として期待されている。しかし、ヒトiPS/ES細胞から分化させて作製した移植用細胞には、未分化な状態のヒトiPS/ES細胞が残存し、移植後に腫瘍化する可能性があるため、再生医療への応用時に大きな課題となっていた。
これまで産総研では、レクチン(糖結合タンパク質の総称)の1種であるrBC2LCNがヒトiPS/ES細胞に特異的に結合することなどを発見してきた。今回新たに、rBC2LCNがヒトiPS/ES細胞に結合後、細胞内に取り込まれるという現象を発見。そこで、細胞内に取り込まれるとタンパク質合成を阻害し、細胞死を引き起こす緑膿菌由来外毒素をrBC2LCNのC末端部分に融合させた組み換えタンパク質(薬剤融合型レクチン)を考案した。
これをヒトiPS/ES細胞に反応させたところ、ほとんどの細胞が死に、分化していない各種ヒトiPS/ES細胞を効率的に除去できることが分かった。また、分化した細胞への影響を調べるため、分化細胞に薬剤融合型レクチンを作用させたところ、ほとんど死ぬことはなかったという。このことから薬剤融合型レクチンは、未分化なヒトiPS/ES細胞を選択的に除去し、分化した体細胞の増殖や生存には影響を与えないことが明らかにされた。
この薬剤融合型レクチンは、ヒトiPS/ES細胞を除去するための試薬として、1年以内に実用化される予定。細胞を事前に分離するといった前処理の必要がなく、大量の細胞や細胞シートなどへの適用も可能だという。さらに今後は、再生医療に用いるヒトiPS細胞由来の心筋細胞・神経細胞などの細胞製造への適用性を検証するとしている。
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