4つ目のポイントは、リコールリスクの高まりである。近年、OEMによるリコールの規模の大型化が進んでいる。しかも、OEMがサプライヤにリコール費用を負担させる求償の動きが強くなっている。グローバル化や共通化により、同一部品が大量の製品に組み込まれる利点はあるものの、リコールが発生した場合の影響はかつてないほど甚大なものとなっている。
図4は、近年公表された大きなリコール案件のリスクである。メガプラットフォーム化が本格的に進むようになると、この影響はさらに甚大なものとなる。サプライヤにとって、最大の防御は「完璧品質の作り込み」に尽きる。これを日本国外で実現することは簡単なことではないが、それをやり遂げた企業こそメガプラットフォーム時代の勝ち組になることができる。
最後は、M&Aによる業界再編の動きである。メガサプライヤに必要となる規模を実現する上での1つの手段としてはM&Aの活用が挙げられる。サプライヤ間での国境を越えたM&Aは今後も継続して増加すると見込まれる。顧客獲得、海外での製造拠点網の獲得など目的はさまざまであるが、M&Aは今後も有効な手段となり続けるだろう。プライベート・エクイティ(PE)ファンドが株主としてサプライヤ経営に関与する案件も増えてきており、再編を加速する要因となる。下記の表は2013年以降、PEファンドが関与した自動車部品業界におけるM&A案件のリストである(図5)。
このように自動車産業が成長産業である中で、日系サプライヤを取り巻く経営環境は今後ますます厳しくなっていくと思われる。その中で、成長を実現するためには、従来の延長線上の発想では無理だ。OEMの戦略に合致する本当の意味でのグローバル組織の構築と、聖域なきコスト削減努力に取り組むことが不可欠だ。これらを前提に世界中の競合他社の動向を見ながら、独自の強みを打ち出していく必要がある。最近は円安の効果やグローバルでの自動車販売台数の持ち直しなどもあり、一息ついている経営者も見受けられるが、少し厳しさが緩んだ今こそ、10年後、20年後の絵を描きながら、大きな戦略的かじ取りを行うことが必要だと、筆者は考えている。
(次回に続く)
野村総合研究所、International Finance Corporation(世界銀行グループ)、KPMG(ニューヨーク)、アドバンテッジパートナーズを経て、アリックスパートナーズ入社。クロスボーダー案件を中心とするM&A・事業統合、コスト削減、組織再編、投融資業務等、多数の実績を残す。
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