企業再生請負人が製造業の各産業について、業界構造的な問題点と今後の指針を解説する本連載。今回は自動車OEMの動きを背景に、自動車部品メーカーが抱える問題点について解説する。
米国ゼネラルモーターズ(GM)や日本航空、ライブドアなど多くの企業再生を手掛けてきた企業再生のプロであるアリックスパートナーズが、企業再生の手法、製造業各業界の状況について解説する本連載。前回の「アップルにあって日系電機メーカーにないものは何か?」では、苦境が目立つ日系エレクトロニクス産業について解説した。
今回は、自動車OEM(以下、OEM)※)の動きの変化とともに、その影響を受ける自動車部品メーカーの構造的な問題点について解説する。
※)自動車OEMメーカー: いわゆる自動車メーカー。自社ブランドで完成車を発売しているメーカーのこと。
世界における自動車販売台数は、今後5年間で年率3%ペースで成長すると見込まれている。一方、国内販売台数は減少トレンドが予測されている。今後の自動車市場の成長をけん引するのは、中国をはじめとする新興国や米国であり、そこでの市場シェア確保が日系OEMにとって重要な課題となっている(図1)。
このような状況下において、日系OEMは2つの大きな戦略的な動きを取ろうとしている。
1つ目は、海外生産体制の増強である。日系OEMは、いずれも海外での販売台数を増やす計画を立てており、同時に、それを実現すべく海外での生産能力増強に向けた設備投資を積極的に進めている。特に2012年11月から始まった“アベノミクス”による円安効果以降、多くの企業が収益体質を大幅に改善させたことで、日系OEMは内部留保の蓄積を進めており、それを成長原資に充当している。日系OEMによる現地生産体制の推進と部品の現地調達比率の100%化に向けた動きは、過去から一貫した方針として続いており、これは不可逆的な動きだと考えられる。
2つ目は、グローバル調達ならびにサプライヤ数の集約に向けた動きである。自動車業界の大きな流れとして、メガプラットフォーム戦略の推進がある。これは、自動車部品の共通化によるコスト削減を目的に、車台を指すプラットフォームを複数のブランドや車種(高級車、中級車、大衆車など)で横断的に使えるよう、自動車の設計そのものを抜本的に見直す取り組みをいう。
この動きは、ドイツのVolkswagen(フォルクスワーゲン)が2012年2月にMQBと呼ぶ設計方法の全体像を詳細に発表したのを契機に加速した。2012年2月末には日産自動車がコモン・モジュール・ファミリー(CMF)を発表。さらに2013年4月には、トヨタがトヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ(TNGA)というコンセプトを発表するなど、各社とも自動車設計の世界標準化を推進しようとしている。
OEMは、この戦略を実現するべく、世界中に配置されている自社製造拠点に対して、グローバル単位で共通品質と低価格で部品供給ができる能力を備えたサプライヤへ取引を集約しようとしている。結果として、OEMによるサプライヤの選定は、系列関係、取引・人的な関係、サプライヤの国籍(本社所在地)ではなく、戦略遂行に必要となる機能を果たしてくれるか否か、ということが重視されるようになる。
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