さて、連載のスタートから、ドングルPCの“あまり良くない話”を続けてしまいましたが、事実は事実として受け止め、有効活用の道を模索していきましょう。
前述の通り、ハードウェアメーカーとしては、「自力でサービスと連携させてまで、ドングルPCを取り扱うモチベーションはない」といえます。では、サービス事業者はどうでしょうか。世の中にはたくさんのサービスが存在します。サービスの種類も規模もさまざまですが、会員を保持し、そこに競合もおり、そこでビジネスを展開するサービス事業者は、何が何でも勝ち残りたいと思っているはずです。
ドングルPCを利用した付加価値による効果は、およそ全てのサービス事業者に見いだせるはずです。しかし、「自社サービスに、どのように適用していけばよいのか」ということについて、サービス事業者自身が単独で明確な方向性を持つことは、簡単ではありません。なぜなら、サービス事業者は必ずしも“ITのプロフェッショナルではない”からです。このことから、サービス事業者がITに精通している数少ない例が、モバイルキャリアのSTBサービスであったといえるでしょう。
つまり、サービス事業者がドングルPCを有効活用し、ハードウェアメーカーが大きなビジネスを成し遂げるためには、“ITの知識”を十分に持ち、サービスごとの付加価値を考え出し、その実現に必要なソフトウェアの設計・実装、ハードウェアの調達、サーバとの連携など、全体をコーディネイトできる能力を持った第三者の存在が必要なのです(図6)。
簡単に書いてしまいましたが、ドングルPCはその小ささ、安さ故に、技術的な課題を幾つも持っています。具体的には、熱が出たり、電力が足りなくなったり、期待する性能が出なかったりなどです。また、ソフトウェアを一から全て作っていたのでは時間とお金が掛かって仕方がありませんので、多くのサービスで使う主だった機能は、あらかじめ備えておく必要があります(図7)。
実は、技術的な課題以上に複雑なのがビジネスの面です。その安さ故に、為替レートの影響を受けやすく、安定供給に相当な工夫が必要であったり、あまり頑丈に作り過ぎると値段に返ってくるため、在庫と速やかな入れ替えスキームを構築しておく必要があったりなど、ウンザリするような課題を幾つも解決しなければなりません。
それでも、このデバイスを手掛ける十分な理由があります。それは前述した通り、「ドングルPCには、社会全体に影響を与えるような、無限の可能性がある」からです(図8)。
クラウドサービス関連の展示会において、ドングルPCがたくさん出品されるようになると、ドングルPCのビジネスが軌道に乗ったといえるでしょう。残念ながら、いまは、まだその段階にありませんが、近く実現することでしょう。筆者はそう信じています。本連載を通じ、1人でも多くの皆さんに“ドングルPCの価値”をお伝えできればと思います。それでは、また次回お会いしましょう! (次回に続く)
金山二郎(かなやま じろう)
株式会社イーフロー ソフトウェア開発部 部長。Java黎明(れいめい)期から組み込みJavaを専門に活動している。10年以上の経験に基づく技術とアイデアを、最近はAndroidを利用したソリューションに活用している。
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