〜 オーストラリアのビールメーカーのケース 〜
次は、競争の激しいビール業界における事例です。L社は、オーストラリアとニュージランドのマーケット向けにビールと酒類を製造している、オーストラリアの大手ビール会社です。ビール業界は競合が厳しく、世界的にM&Aが行われており、さらなるコスト競争力が要求されています。ビール種の増加やパッケージの多様化で製品在庫維持単位数(SKU数)が増加しています。さらにライセンス生産があるなど製品の幅が広がり、管理がますます複雑になっています。
需要には顕著な季節変動性があり、一方で設備は簡単に増やすことはできないという、需給バランス上の難しさがあり、賞味期限を考慮しながら適切な在庫備蓄を計画的に行う必要があります。加えて複数の醸造所と複数の倉庫があり、最適な生産配分や輸送を行わなければなりません。
L社のサプライチェーンの課題は次のようなものでした。作業チームの稼働率や工場設備の稼働率にバラつきがある他、稼働率が良くない、過剰在庫が見られる一方で欠品が発生する、賞味期限切れの廃棄ロスが多い、といった課題です。
生産プロセスにおいては、長いリードタイムを要しバッチサイズの大きい醸造プロセスと、需要プル型で短いリードタイムで対応しなければならないパッケージングプロセスがあり、この2つの部門間の同期が課題です。L社では部門間の同期がうまくとれておらず、滞留や廃棄が多く発生していました。
L社では、これらのサプライチェーンの課題を解決するために、スピーディに分析できる能力を高め、より良い需給の意思決定を行うS&OPプロセスの改善に取り組みました。需給の意思決定とは次のような疑問への解を見つけることです。どの工場で、いつ、何を製造すべきなのか? 負荷はどうか? コストはどうか? 倉庫キャパシティーは十分か? 賞味期限切れは発生しないか? 倉庫間の移動は必要か? 供給不足のときに、どの顧客に割り当てるべきか?
解を見つける際に、それを支援する新しいS&OPシステムを持つ必要がありました。新しいS&OPシステムの核として採用したプランニングツールには、調達や生産、流通におけるさまざまな制約と、コストや収益など経済的指標に基づいて最適な計画の立案を支援する機能がありました。L社の制約とコストは、醸造室と包装ラインでは異なっており、倉庫保管や輸送にも制約とコストがあります。
このような複数の制約とコストモデルを基に、実現可能で、同時にコスト最小・収益最大となる計画を最適化プランニングエンジンに提示させ、コストを見ながら制約オーバーを調整していくという計画立案&見直しプロセスを、毎週行っています。
縦割りになりがちな部門間の壁を超え、一気通貫でサプライチェーンのプランニングを行ったことです。加えてプランニングツールの最適化機能や対話型の分析機能を活用することが、より良い意思決定の鍵です。
本連載では、最近のグローバル企業におけるサプライチェーンマネジメントに関する経営層の意識の変化の他、従来型のS&OPプロセスの発展型である「ビジネスS&OP」とこれを実現するためのツールを紹介してきました。
「ビジネスS&OP」のキーポイントは、「利益ベースのサプライチェーン運営」と「収益最適となる需給バランス計画」です。
ますます加速する環境の変化に対応するためには、これまでと同じスピードでビジネスを進めていては間に合いません。競合他社との競争に勝つこともできません。
自社の業績がどうなっているのか、果たしてもうかっているのかどうかを常に意識する必要があります。今回紹介した4つのグローバル事例を参考にしながら、自社のプロセスの見直しや、ツール、情報システムの活用を検討されてはいかがでしょうか(連載の第1回に戻る)。]
インフォアジャパン株式会社
ビジネスコンサルティング本部 ビジネスコンサルティングマネージャー
酒井ひろみ(さかい ひろみ)
「Sales & Operations Planning」コーナーでは、基礎情報などの解説記事を紹介しています。併せてご覧ください。
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