実例! 韓国の大手総合電機メーカーの判断が早いワケリサーチペーパーでひも解くS&OP(5)(1/3 ページ)

震災や洪水でダメージが少なかった日本“以外”の企業は、日々のオペレーションを指揮する意思決定プロセスをこんな感じで運用している。いざというときにダメージの少ない企業体質を身に付けるための処方せんを知り、自社導入の参考にしよう。

» 2012年07月20日 08時00分 公開
[S&OP-Japan研究会,@IT MONOist]

この連載について

第一部連載「S&OPプロセス導入 現場の本音とヒント」では、いま製造業の現場で各部門が抱えている悩みと、解決の糸口を得るまでを紹介してきました。本稿を含む第二部「リサーチペーパーでひもとくS&OP」では、第一部の課題を解決すべく、各部門の視点から見たS&OPプロセスの意味、効果を検討していきます。以降、本編はリサーチペーパーの形式で紹介していきます。


今回の主筆:S&OP-Japan研究会 東政征

この物語は……

S&OP-Japan研究会メンバーが創作した100%フィクションの物語と、各分野の専門家、現場のプロの解説によって構成されています。連載に登場する人物は解説で言及するものを除き、特定の個人・企業・団体に関係するものではありません。



 営業事業統括本部長のOと生産計画グループマネジャーのSは、これまで学んできた内容からS&OPの考え方と効果に大きな期待を感じ、社内でS&OPの導入を進める強い決意が生まれていました。2人はどのようにS&OPを自社に適用しようか熱く語り合っていた。最終回では実際にどのようにS&OPプロセスを実現していくのか見てみよう。

S&OPプロセス構築のヒント

既にある、異なるサイクルの会議体をまとめていくには

 「これまで学んだように、S&OPプロセスは、一般的に5つのサブプロセスから構成されていることはよく分かった。しかし、検討のサイクルが異なるわが社の製販調整会議と四半期レビュー会議をS&OPプロセスを用いてどのようにまとめていけばよいのだろうか……」。O本部長は頭をかきながらSマネジャーに尋ねます。

 「大丈夫。これまで、Pさんのところを訪問して、グローバルS&OPの事例を見てきたし、それにリサーチペーパーで勉強もしてきたじゃないか」

 Sさんは、ある雑誌記事を手に自信を持って答えます。

 「最近、韓国の総合電機メーカーが構築したS&OPのベストプラクティスに関する記事を見つけたんだが、いままでの知識や情報を踏まえながら、この記事を参考にしてみてはどうだろう? きっと具体的な方法を見つけるヒントがあると思うんだ」

韓国の総合電機メーカーが実践しているS&OPプロセスを読む

 2人はSさんが持ってきた『S&OP-Jレビューマガジン』2012年7月号記事を読むことにしました。最先端の事例として、S&OPプロセスを導入・実践して効果を挙げている企業の実例を紹介する記事です。

◇ ◇ ◇

 ……ここでは、グローバルにビジネスを展開する韓国の総合電機メーカーのS&OP構築の事例を紹介しましょう。

タイムスパンの異なる計画、レビューサイクルをどう運用するか

 S&OPプロセスには、経営と現場のオペレーションの計画を連携させる・同期化させるという大きな目的があります。この2つの領域を実際に連携させるためには、それらの間にある、タイムスパンの異なる計画をまとめていく必要があります。

 具体的には、生産部門と販売部門間で部材やキャパシティーなどを考慮して調整される、数量ベースの需給計画(企業によっては「PSI計画」や「マスタープラン」と呼ぶ)のような直近の計画から、新製品の投入・終売計画や設備増強の判断、そして売り上げや収益が、年次計画や事業計画から見て達成可能か否かといった中長期の検討まで含む必要が出てきます。

 これらの、オペレーションと経営をつなぐ幅広い計画の検討や意思決定を、1つのレビューサイクル(例えば月次サイクルだけ)で実現できるわけではありません。

韓国の大手総合電機メーカーが実践しているS&OPプロセス

 S&OPを実践する韓国のとある先進企業では、目的や議題に応じてレビューサイクルを複数定義し計画を更新しており、管理されるKPI(重要業績評価指標)もレビューサイクルごとに異なります。S&OPのプロセスをより詳細にレビューするタイミング、議題などを時間軸上に展開することで経営とオペレーションの計画を1つに統合しているのです。今回紹介する韓国総合電機メーカーでは図1に示すレビューサイクルでS&OPを運用しています。

図1 韓国総合電機メーカーの構造化されたS&OPレビューサイクル 図1 韓国総合電機メーカーの構造化されたS&OPレビューサイクル

情報の一元管理で最新情報を全社で共有、進捗の把握

 図1のように、この企業では全社で一元管理化したシステムから関係者が最新情報を共有しながら、各部門をつなぐS&OPのレビューサイクルを週次と月次、四半期と3つのステップで運用・管理しています。それぞれのサイクルで目的や議題が異なり、インプットする情報やレビューする計画、KPIが厳密に定義されています。

 作成される計画は「立てっぱなし」ではなく、オペレーションの実績情報を常にチェックしていくことで、マネジャーは計画に対するパフォーマンス状況をは把握きます。ひいてはPDCAサイクルを企業全体で回せる仕組みをこの企業は構築しているのです。

各レビューサイクルの運営内容

 下の表に、今回取り上げている韓国大手総合電機メーカーが実践しているS&OPプロセスの週・月・四半期別のレビュー会議の内容をまとめます。

週次S&OPレビュー
項目 内容
議題例 ・売り上げ数量・金額見通しレビュー
・需給バランスレビュー(出荷に対する確定オーダーのレビューなど)
・予測精度レビュー
・在庫数量見通しレビュー
頻度 週次 (例)毎週水曜日に開催
計画対象期間 直近の3週間

月次S&OPレビュー
項目 内容
議題例 ・3カ月先までの売上数量・金額・損益見通しレビュー
・6カ月先までの製品モデルグループ別需要計画
・新製品投入・終売計画レビュー
・長手番部材の調達計画や、リスクの高い調達部材の選定と承認
・サプライヤのキャパシティー問題の議論
頻度 ・月次 (例)毎月最終週の水曜日に開催
計画対象期間 ・3〜6カ月間

四半期S&OPレビュー
項目 内容
議題例 ・年次計画に対する実績/見通しレビュー
・15カ月先までの需要計画のローリングプランレビュー
・15カ月プランに対する能力計画と投資計画のレビュー
頻度 ・四半期ごと (例)1、4、7、10月の最終週の水曜日、月次レビューの後に開催
計画対象期間 ・15カ月間

◇ ◇ ◇

 2人は記事を参考に、自社にどのようにS&OPプロセスを適用すべきか検討を始めました。

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